情報通信総合研究所
主任研究員
志村 一隆

 マイクロソフトTVのエンリケ・ロドリゲスCEOは,同社の映像戦略の柱となる「コネクテッド・テレビ(Connected TV)」というコンセプトを「NAB Show 2008」の基調講演で訴えた(写真1)。コネクテッド・テレビとは新たな映像配信のプラットフォームのことで,放送では不可能であるマルチスクリーン・サービスをはじめ,新たな視聴体験を提供できる。NAB Showは全米放送事業者協会(NAB)が主催するイベントで,今回は2008年4月11~17日に開催された。

写真1●「新たな映像体験を」とロドリゲスCEO
写真1●「新たな映像体験を」とロドリゲスCEO
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 コネクテッド・テレビの戦略を支えるのがマイクロソフトのソフトウエア。IPTV向けプラットフォームとして「Mediaroom」,パソコンのアプリケーションとして「Windows Media Center」,またブラウザのプラグインとして「Silverlight」がある。この三つの製品で,マイクロソフトTVは,IPTV事業者,一般視聴者,広告クライアントを巻き込んだ市場開拓を進めていく。

 ロドリゲスCEOは,「こうした戦略製品をもって,IPTV市場へ食い込みを図りたい」としている。たとえば,Mediaroomは,「英BTのBT Visionなどが採用し,全世界で既に150万以上のユーザーがいる」という。また,「Windows Media Centerも,Windows Vista.の普及とともに,既に100万以上のユーザーがいる」と語っている。

コネクテッド・テレビの機能をデモで説明

 「Media Centerは,消費者にとって「家庭のパソコンをエンターテイメントハブに変えるもの」(ロドリゲスCEO)だという。

 デモでは大きなスクリーンに映像を表示しながら,Media Centerの多様な機能を説明していた。たとえば,自動車レースのNASCAR(National Association for Stock Car Auto Racing)のテレビ中継を大きく映しながら,小さな画面にレース中のドライバー情報をWebサイトから引き出してみたり,車に搭載したカメラで撮影する映像を流しながら,ドライバーがマイクを通じてピットと交わす会話を聞かせるデモを演じた。「こうした機能は,既にパソコンで楽しむことができるし,それも素晴らしいことだが,テレビで利用できれば,もっと楽しいことである」と家庭内のハブ機能を強調した。

 また,「広告主にもメリットがある」(ロドリゲス氏)。Media Centerでは,30秒の広告だけでなく,4分の広告を流すテンプレートを用意している。商品に興味を持った消費者はより詳しい商品説明を見てもらえる。どの長さの広告が見られたかなどのデータを広告主は集められる。

北京オリンピックをSilverlightで配信

 Silverlightは,Media Centerのようなアプリケーションではなく,Webブラウザ用のプラグイン。単に映像を見るだけならば,Silverlightのほうが手軽である。マイクロソフトTVは,NBCと提携して8月に開催される北京オリンピックの映像をSilverlight向けに配信する。NBCは北京オリンピックの放送権を取得している。

 ロドリゲスCEOは「北京オリンピックは,史上初めて全競技を映像で見ることのできる大会。約4000時間分の映像をアーカイブ,配信する予定だ」と語った。著作権保護のため,マイクロソフトのDRM(デジタル著作権管理)技術「PlayReady」を利用する。「この映像配信を利用するのがオリンピックを楽しむ一番の方法。自分も夏が来るのを楽しみにしている」(ロドリゲスCEO)。

コネクトされてメディアが増えることで広告市場が増加

 ロドリゲスCEOは,テレビをはじめとして現状のマス広告モデルの伸び悩みは,消費者の行動様式の変化により,「消費者との接点が減少していることに原因が」あると語る。また,「我々は,今までのテレビ・ビジネスを変えようとしているのではなく,技術を使うことによって,テレビの映像がパソコンで楽しむというように接点を増やして発展させたい」(ロドリゲスCEO)とする。メディア開発がマス広告モデルの次ステップへの発展につながる考えを示した。

 最後にロドリゲスCEOは,「コネクテッド・テレビは,コンテンツ・ホルダーにとって新たなビジネス・チャンスであること,ブロードバンドの普及と映像用のソフトウエアに基づく配信プラットフォームにより今までにない映像体験をもたらすことである」とまとめた。

写真2●コネクテッド・テレビのコンセプト
写真2●コネクテッドTVのコンセプト
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