企業ITに必要なシステム資源をネット・サービスとして提供する「クラウド・コンピューティング」の実現に向けたITベンダー各社の取り組みを、前編で紹介した。後編では、既存の企業情報システムやシステム部門への影響について、米IBMのクラウド・コンピューティング担当幹部へのインタビューを交えて分析する。

 企業がクラウド・コンピューティングを取り入れれば、コンシューマ市場で個人が享受したWeb2.0のメリットを企業も得ることができる(図3)。

図3●クラウド・コンピューティングによるメリット
図3●クラウド・コンピューティングによるメリット
コンシューマ市場におけるWeb2.0のメリットと同じである

 ただし企業において、システム部門がその旗振り役になろうとすれば、現在のシステム部門とは役割が変わる。すでにSaaS利用などのケースでみられることだが、たとえシステム部門であっても、ユーザーとしての立場が強くなり、システムを構築する役割は少なくなるからだ。

 企業の次世代システムに詳しい、アクセンチュアの沼畑幸二エグゼクティブ・パートナーも「クラウド・コンピューティングで求められるのはユーザーの視点」と語る。「SaaSやグリッド・コンピューティングといったテクノロジを、ユーザーの視点から定義し直したのがクラウド・コンピューティングだからだ」(同)。

 クラウド・コンピューティングが日常的になれば、システムの購入単位も変わる。ハードもソフトも希望するリソース単位で購入できるようになるのだ。例えば、システム・インフラであれば、サーバーなどの台数ではなく、処理能力を指定することになる。ソフトウエアも、パッケージの製品名ではなく、実施したい処理で選べる。

 実際にはハードもソフトも複数のサービスを組み合わせて利用することになるはずだ。SFDCが用意するアプリケーション共有サービス「App-Exchange」が、そうしたクラウド・コンピューティングの可能性を示唆する。同サービスでは、複数の企業が開発した合計700種類以上のアプリケーションを購入し、プラットフォーム提供サービス「Force.com」上で組み合わせることができる。

 ハードとソフトをサービスとして組み合わせて購入するためには、ユーザー企業が今以上に「何がしたいのか」を明確にする必要がある。また、組み合わせの対象には当然、既存システムも含まれる。社内外のシステムを違和感なく統合するには、社内システムもSOA(サービス指向アーキテクチャ)の導入などで、サービス単位で分割できるようにすることが望ましい。

 クラウド・コンピューティングは企業ITのパラダイムシフトを暗示するだけに、ユーザーが備えておくべきことは多そうだ。