1日に200~300人の人材派遣の依頼を約40人のコーディネーターが、IT(情報技術)以外の方法を駆使してこなしていた。そのフロアの様子を見て思わず笑ったのは野村総合研究所時代の佐藤治夫さん。現在は、人材サービス業界で売上高世界10位のスタッフサービス・ホールディングスの取締役として IT全般の指揮をとる。人材派遣は、後工程の勤怠・保険などの管理業務では差別化が難しく、スタッフサービスは受発注の前工程で「2時間人選」というスピードを強みとする。

 同業他社と同様に人材を取り合う人材派遣業界では、同じ人が同様のオーダーを1日何件も受けることは珍しくない。サービス業はコンテンツで差別化が難しいと考える佐藤さんは、スピードで差別化するスタッフサービスを素晴らしいと感じた。1日のうちに何本も買いが入り何本も売りがある現場を見て、証券取引所のようでおもしろいと思った。一番いい値で売りたいという価値もあるが、早く決めることが価値だ。ほとんどのエンジニアがベストマッチングをイメージするが、バンバン入る受発注を迅速に処理をするのが付加価値。神のスピード、神速を目指せというわけだ。

 スタッフサービスの要件は、2倍の規模になっても2時間人選ができることだけだった。ほかはすべて変えてよいという。「人選のやり方を変えると、会社の文化が変わる」と思った。「それでもいいか」と尋ねたが、答えはイエスだった。

 システムの最大のポイントは、スタッフの意欲をパラメーターにすることだった。エクセルとパワーポイントができる派遣の人はたくさんいる。しかし、働く意欲は違うはず。これをITによってコーディネーターが分かるようにしたい。電話で話した内容をテキスト文書でデータベース(DB)に入れる。これをしないと文書を閉められない。DBを見れば、誰が電話をして、どんなリアクションをしたかが分かる。履歴書では分からない意欲がDBに反映される。何だ、よく考えたらスピードだけじゃない。スタッフサービスのコンテンツは同業他社より精査され、よりベストマッチングができているようだ。

 日本のサービス業が世界で通じるノウハウを持つ例は少ない。しかし、知恵を出す日本人がITを活用すればできるはずだと佐藤さんは語る。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
 シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA