英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
ヨン・キム

 あなたは月に43分の無料通話と217通の無料SMS送信と引き換えに,1日に6通の広告メールを受け取る覚悟はあるだろうか。まだ別の条件がある。英国に居住,16歳から24歳の年齢であり,加入には友人からの招待が必要であること。さらに広告配信用に詳細なプロフィールが求められる。これらのハードルをクリアして,ようやく「Blyk」という名の新しいMVNO(仮想移動体通信事業者)サービスに加入できる。

 Blykは2007年9月にスタートした英国で最も新しいMVNOサービスだ。広告モデルによる無料通話と若者をターゲットにした戦略で1年で10万加入を目指す。コンシューマ向けMVNOは世界的に苦戦している事業者が多い。このような厳しい加入条件を持ったBlykがビジネスとして成功するのか。私自身,注意深く見守っている。

英国のMVNOのうち成功例はわずか

 自前の周波数とネットワーク設備を持たないMVNOは,通常の携帯電話事業と比べてサービス参入の障壁が低い。そのため英国では既に17ものMVNOが登場している。その中で最大の加入数を誇るのが,MVNOの先駆けとして知られている英ヴァージン・モバイルだ。

 MVNOは,自らネットワークを保持する必要がないため,設備投資のリスクが少ない分,通常の携帯電話事業よりも安くサービスを提供できる。しかし単に低価格を狙っただけのMVNOは,例外なく苦しい状況に追い込まれている。英国では,ヴァージン・モバイルや英国最大のスーパーマーケットであるテスコが提供するMVNOサービスが,ごく限られた成功例だ。両社のようにブランドや販売網をしっかり持たなければ,MVNOの成功は難しいことを示している。米国では最近,米ディズニー・モバイルと米ESPNによるMVNOサービスが失敗に終わった。この出来事はMVNOに対する市場の活気を一気に喪失させた。

 ではMVNOにはもう未来がないのだろうか。私は企業向けのMVNOに可能性があると考えている。企業ユーザーは,携帯電話よりもコストを抑えられるFMC(fixed mobile convergence)サービスに対するニーズが高い。MVNOだからこそ,多彩な企業向けFMCサービスの登場が期待できる。英BTもMVNOとして「Office Anywhere」という企業向けFMCサービスを提供し,ユーザーからは好評だ。

 MVNOを単に音声だけに限定するとその失敗例が目に付く。しかし考え方を変えればその将来性は広がる。米アップルのiPhoneは世界の携帯事業者と提携しているが,これも形を変えたMVNOとみていい。デンマークは世界で最もMVNOが成功している国だが,その背景には政府がMVNOに関する明確な規制を定めており,しかもMVNOへのネットワークの卸売り価格が安いということがある。

 MVNOを音声に限定せず,Web2.0などを利用したビジネスモデルを構築し,さらに政府の明確な規制があれば,様々な形態でMVNOは普及していくだろう。その際,次の競争の舞台は企業向け分野になると私は考えている。

ヨン・キム(Yung Kim) 英BTグループ テクノロジー&イノベーション
日本・韓国担当副社長
 欧州委員会は4月上旬,欧州を飛ぶ航空機内で携帯電話の利用を可能にする声明を出した。個人的には機内では静かな時間を過ごしたいので,テキストやメールの利用に限定した方がよいと思う。
 そういえば先日,豪カンタス航空に乗ったところ,離陸したらすぐに「携帯電話を利用できます」というアナウンスがあった。既に機内での携帯利用を解禁している航空会社も登場している。私の願いはかなわないのだろうか。