Bフレッツの9割近くのユーザーに普及しているIP電話サービス「ひかり電話」。ここで初めて電話番号を取得したユーザーは,NGNによる新しいFTTHサービス「フレッツ 光ネクスト」に電話番号をそのまま移行できないという問題が発生している。NTT東西はNGNサービスが本格化する秋をメドに問題解消を計画している。

 NTT東西地域会社が2008年3月31日から提供を始めたNGN(次世代ネットワーク)によるFTTH(fiber to the home)サービス「フレッツ 光ネクスト」に,“電話番号問題”が浮上した。「Bフレッツ」のユーザーの一部が,電話番号を変えずにフレッツ 光ネクストに移行できないという問題が生じている。

 その問題は,IP電話サービス「ひかり電話」に契約する時に初めて0AB~J番号を取得した約100万加入に当てはまる。Bフレッツからフレッツ 光ネクストに契約を変更する時に,ひかり電話の電話番号を取得し直さなくてはならないというのだ(図1)。この問題は,NTT東西にとってBフレッツからNGNへの円滑な移行を阻害する要因となりかねない。

図1●フレッツ 光ネクストに切り替える際にひかり電話の電話番号が変わってしまうことがある
図1●フレッツ光ネクストに切り替える際にひかり電話の電話番号が変わってしまうことがある
Bフレッツユーザーがひかり電話に契約した時に新しく発行された電話番号はフレッツ 光ネクストに移行できない。
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 原因は,現行のひかり電話網に電話番号を変えずに他のサービスへ転出できるようにする「番号ポータビリティ機能」が備わっていないことにある。

加入電話から移行したなら対象外

 加入電話網の交換機には,番号ポータビリティ機能がある。このため,もともと加入電話で使っていた電話番号をBフレッツのひかり電話に移行したユーザーは,フレッツ 光ネクストにも同じ番号のまま契約を変更できる。

 これは加入電話を使っていたユーザーが移転した時に,加入電話網の交換機に元の電話番号とBフレッツ用のひかり電話網に移転したという情報が保存されるから。その電話番号あてに発信された通話は,まず加入電話網の交換機が受け付け,移転先ネットワークの交換機(この場合はひかり電話網の中継接続先)を発信元ネットワークに指し示し,呼をリダイレクトするという仕組みだ。NTT東西が新しい移転先としてNGNを登録し直せば,同じ番号のままフレッツ 光ネクストに切り替えられる。

 こうした対応で同番移行が可能なユーザーは「Bフレッツ全体の9割以上」(NTT東日本)という。フレッツ 光ネクストに加入できるエリアが,東西合わせて14局という現状では,1割のユーザーに不便が生じることを承知の上で,サービス開始を優先するという判断が働いたようだ。

データベース連携で10月にも解消

 NTT東西は,フレッツ 光ネクストの提供エリアが一定の都市圏に拡大し,販売を本格化する10月前後をメドに,この問題を解消する計画だ。

 具体的には,Bフレッツのひかり電話網とNGNのひかり電話網のそれぞれに設置した番号データベースを連携させ,同一のシステムとして運用する機能を加える(図2)。

図2●NTT東西が検討しているIP電話番号の同番移行の方法
図2●NTT東西が検討しているIP電話番号の同番移行の方法
2008年秋にも,NGNと既存のひかり電話網の間で,同番移行を可能にする予定である。他の事業者のIP電話網との同番移行については2008年9月ころに総務省に方式案を提案する見通し。
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 現行のひかり電話網は,2007年5月の大規模障害の反省から,中継網を手始めに段階的にNGNに統合していく計画を進めている。最終的には番号データベースもNGN上で稼働するものに一元化する計画だ。そうなればBフレッツかフレッツ 光ネクストかに関係なく一つのひかり電話サービスを実現できるため,同番移行も可能になる。

 ただし「今回はデータベースの連携を先行して,一足早く同番移行を実現させる形を取る」という。

ひかり電話網だけ番号移転が可能に

 電話番号問題が解消すれば,ユーザーの利便性は向上する。ただし,他の通信事業者からのNTT東西に対する批判を招く可能性もある。NTT東西内のひかり電話網同士で同番移行が可能になるにもかかわらず,他事業者の0AB~J番号サービスへは同番移行できないままだからだ。

 例えば,ひかり電話からKDDIの「メタルプラス電話」など他の通信事業者の固定電話サービスに移転するときには,ひかり電話網に番号ポータビリティ機能がないため,電話番号が変わってしまう。他社から見れば,NTT東西が自社のサービス間だけ番号ポータビリティを提供し,他社には提供していない,と受け取られかねない。

 NTT東西はこれに対して「ひかり電話の通信設備の一部が,自社の複数のサービスをカバーするようになるだけのこと。他社との連携を前提とする番号ポータビリティ機能とは関係ない」と説明する。現にアナログ加入電話とISDNサービス「INSネット64」の間は,番号ポータビリティの仕組みを使わなくても同一番号のまま契約を変更できる。これと同じことをIP電話でも行うだけだという主張である。

9月にたたき台を総務省に提出

 一方でNTT東西は,ほかの事業者を含め0AB~J番号を使うIP電話網同士の番号ポータビリティ機能を実現する方法を検討している。これは総務省がNTT東西にNGNの商用化を認める条件として「0AB~J番号を使えるIP電話間の番号ポータビリティの実現方式を検討すること」を指示していたからだ。NTT東西は9月前後をメドに,事業者間協議を始めるための案を提出する予定だ。

 NTT東西は,0AB~J番号のIP電話サービスだけでなく,KDDIのメタルプラス電話など中継網がIP化された直収電話などを含めて,番号ポータビリティ機能を導入しようと考えている。ただし既存の交換機を使う加入電話網や電話交換機で構成している他社の直収電話サービスへ,ひかり電話から同番移行することまでは実現しない。「いずれ自社も含めて既存の電話交換機は維持できなくなり,IP電話網に置き換えざるを得なくなる」からだという。

 NTT東西は,ほとんどの事業者が固定電話網をIP化することが見えたタイミングで,IP電話網間だけ番号ポータビリティを実現する方針だ。これなら通信事業者全体で負担するネットワーク改修費用も引き下げられるとの判断がある。