by Gartner
Philip Dawson VP兼最上級アナリスト
Thomas Bittman VP兼最上級アナリスト
亦賀 忠明 VP兼最上級アナリスト

 仮想化技術はITインフラにおいて,2012年までに最も大きな影響を与えるトレンドになる。仮想化により,ITの管理や購入,設置,計画,課金の方法が変わる。その結果,インフラ・ベンダーに新しい競争の波が広がり,この数年で市場に相当な破壊と統合が起こるだろう。

 仮想化技術は決して新しい概念ではない。例えばストレージは,主にベンダー独自のアーキテクチャに基づく形だが,すでに仮想化されている。ネットワークも同様だ。しかしサーバーとクライアントの仮想化まで一般的になったことで,伝統的なITの常識が通用しなくなってきた。ビジネスとITの関係が変わったのだ。

 この変化の先頭を走っているのが,サーバーの仮想化である。既存のサーバー・アーキテクチャで有効活用されていない性能を引き出してくれるものだ。サーバーの仮想化はすでに,サーバー市場に少なくない影響を与えている。仮想化の登場によって,x86のサーバー市場は2006年に8%小さくなったとガートナーはみている。競争の激化により仮想化ソフトの価格が急落し,管理コストが下がっていけば,仮想化のインパクトはもっと大きくなる。ガートナーはx86ベースの仮想化サーバーが,2009年までに400万台以上稼働すると予測している。

 仮想化クライアントの利用も,急速に増える見込みだ。仮想化クライアントの数は,2007年に500万台以下だったものが2011年には6億6000万台になるだろう。クライアントにおいて,ハードとソフト間の強固な依存性を断ち切る技術は,2つの階層に分かれる。マシンを仮想化するハード-OS間と,アプリケーションを仮想化するOS-アプリケーション間の2つだ。

 アプリケーションの仮想化への関心も高いが,より長期的なインパクトがあるのはマシンの仮想化だろう。ユーザー個別の設定を同じサーバー上で実施することにより,パソコンがより管理しやすく,柔軟で,安全になる。

 仮想化によって,OSの進化は2つの道に分かれた。従来はクライアントとサーバーの双方で,OSが中核的な存在だった。しかし新しい技術と新しいコンピューティング・モデル,インフラの仮想化/自動化の3つがOSのアーキテクチャと役割を変えつつある。一枚岩の汎用OSの時代は,まもなく終わるのだ。

 構成要素ごとの最良の選択肢を目指し,予算の最大シェアを狙ってきたインフラ・ベンダーは,そのアプローチを変えなければならない。将来,インフラの仮想化/自動化が業務サービス・レベルのポリシーによって管理されるようになるため,インフラの全構成要素は互いに協調しなければならなくなる。これに困るベンダーもいるだろう。標準化されてスムーズに動くインフラは,自社の構成要素をコモディティに変えてしまうものであり,市場に決定的なくさびを打っておくことが重要と考えているベンダーである。

 そうしたベンダー間の競争は,市場とユーザーのインフラのなかで続くだろうが,やがて混乱を招くだろう。ついにはアーキテクチャを支配する少数の独占的なインフラが登場し,ガバナンスの階層のなかで,その支配を広げていくに違いない。

 短期から中期的には,市場に不透明感が漂うことになるだろう。その間,特定ベンダーのビジョンに従うのは得策ではない。自らのビジョンを持ってアーキテクチャを見定め,戦略的な計画を常に修正しながら,その方向に進んでいくべきだ。中期的には,仮想化の戦略をビジネスに合ったものにしておく。ベンダーの浮き沈みにはとらわれず,ソフトウエアの価格とライセンス体系に注意しておく。実験的な試みへの準備が必要だ。注意すべきなのは,被験者には決してならず,実験の主体者になることである。