3.5Gモバイル・データ通信が企業ネットの新しい世界を切り開こうとしている。3.5Gとは第3.5世代携帯電話のこと。数Mビット/秒の「高速」な伝送速度を得られる技術である。この技術は,今や携帯電話端末のデータ通信だけではなく,ノート・パソコンなどをネットに接続する際のモバイル・データ通信用途などで活用が進んでいる。しかも月数千円程度の「定額」料金で使えるようになってきた。

 高速・定額の口火を切ったのは最後発の携帯電話事業者,イー・モバイルだ。その後,NTTドコモやKDDIも追随。イー・モバイルやNTTドコモから通信インフラを借り受けて事業を行うMVNO(仮想移動体通信事業者)も同様のサービスを提供し始めた(表1)。「IIJモバイル」を提供するIIJのように,企業向けに特化したMVNOも登場している。

表1●定額のノートPC向け(携帯電話端末以外で使う)3.5Gデータ通信サービス
2008年3月時点で提供されているものをまとめた。他にもアッカ・ネットワークスなどがMVNOによるHSDPAサービスの提供を予定している。サービスによって,端末をレンタルするか購入するか,インターネット接続料金を含むか含まないか,といった違いがある。ワイヤレス・ルーターでもこれらのサービスが使える。
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表1●定額のノートPC向け(携帯電話端末以外で使う)3.5Gデータ通信サービス

 3.5Gサービスの中でも,特にイー・モバイルやNTTドコモなどが提供する「HSDPA」はユーザーからの評価が高い。HSDPAは伝送速度の理論値が下り最大14.4Mビット/秒(現在提供されているサービスは最大3.6M~7.2Mビット/秒に制限)で,実効速度でも下り1Mビット/秒以上を期待できるからだ。

 1Mビット/秒以上の実効速度があれば,企業ネットワークの中で,ADSLなど固定通信回線の代わりに使うことが可能だ。3.5Gサービスを企業ネットのアクセス回線として使うための製品も続々登場している。

 企業内でのノート・パソコンの使い方にも変革をもたらす。モバイル・データ通信経由の遠隔管理や情報のプッシュ型配信,「モバイル・シン・クライアント」など,ノート・パソコンの新たな活用法が生まれてくる。また,3.5Gの通信モジュールを内蔵するノート・パソコンも昨年夏ころから急増中だ。さらに,3.5G対応の通信モジュールが登場したことで,「デジタル・サイネージ」への動画配信といった新規の用途も見込まれる。こうした新しい世界の詳細を次ページから見ていこう。