IPA(情報処理推進機構)は3月31日、「ITスキル標準(ITSS)」を2 年ぶりに大幅改訂したバージョン3(V3)を公開した。最も重要な改訂ポイントは、ITSSのレベル認定に情報処理技術者試験を利用可能にしたこと。IT人材の育成に生かせる「ものさし」を統一したという意味で、大きな前進と言える。

 ITSS V3は、IPAが2006年4月に公開した「ITSS V2」以来、2年ぶりのメジャー・バージョンアップとなる(図1)。ドキュメントは、IPAのWebサイトhttp://www.ipa.go.jp/jinzai/itss/download_V3.html)からダウンロードできる(別掲記事「ITSSは業界共通の『ものさし』」参照)。

図1●ITスキル標準改訂の経緯
図1●ITスキル標準改訂の経緯
2008年10月には「共通キャリア・スキルフレームワーク」を介して、ITSS、ETSS、UISS、情報処理技術者試験の対応を明確化する

 最も重要な改訂ポイントは、情報処理技術者試験との対応を明確化したことである。職種・専門分野も手直しし、専門分野の定義を若干変更した。

 ITSSは2002年12月に公開されてから5年がたち、職種とレベルに関するIT業界共通の「ものさし」として大企業を中心に定着しつつある。

 IPAが2007年9月にITベンダー2000社を対象に実施した「IT人材市場動向予備調査」(回答企業357社)によれば、従業員数1000人以上の大企業のうち、人事制度や人材戦略の立案にITSSを参照・利用しているのは、63.4%に上る。

 「利用を検討している」と答えた企業を合わせると78%に達する。V3の登場で、ITSS採用の動きがより加速しそうだ。

試験の合格でレベルを認定

 ITSS V3は、IPAのITスキル標準センターがとりまとめ、「ITスキル標準改訂委員会」(委員長はCSKホールディングスの有賀貞一取締役)の審議を経て公開された。改訂ポイントとしてまず挙げられるのは、ITSSのレベル1~3の評価手段として、情報処理技術者試験を利用できるようにしたことである。

 評価手段として利用できるのは、現行の情報処理技術者試験ではなく、2009年春に開始する新制度で提供される試験。新試験制度では「ITパスポート試験」を新設し、「ソフトウェア開発技術者試験」を「応用情報技術者試験」にリニューアルする。高度試験のラインアップも大きく変わる。

 この新試験制度のITパスポート試験に合格すれば、ITSSのレベル1で期待される必要最低限の能力レベルに到達しているものとみなす。同様に、レベル2は基本情報技術者試験、レベル3は応用情報技術者試験の合格をもって、期待される必要最低限の能力レベルに到達しているものとみなす(表1)。要は、試験の合格でレベルを認定するということだ。

表1●2009年に始まる新しい情報処理技術者試験とレベル1、2、3の対応
試験合格をもって、そのレベルで期待される最低限の能力レベルに到達しているとみなす
表1●2009年に始まる新しい情報処理技術者試験とレベル1、2、3の対応

 ただし、試験の合格がITSSの各レベルの認定に必須というわけではない。従来通り、経験と実績の指標である達成度指標を使ってレベルを評価してもよい。

 この改訂は、経済産業相の諮問機関である産業構造審議会(産構審)が2007年7月に公表した報告書「高度IT人材の育成をめざして」に対応している。同報告書には、「共通キャリア・スキルフレームワーク」を作成したうえで、このフレームワークと整合性を図るよう情報処理技術者試験を改革する--と明記された。この施策を具体化したのが、2009年に開始する新試験制度だ。共通キャリア・スキルフレームワークは、エンジニアの人材像や人材像に必要なスキル、7段階のレベル評価尺度を示したもの。7段階のレベルはITSSのレベルと同等である。

 同報告書では、新試験制度の「エントリ試験」「基本試験」「ミドル試験」の合格者が、それぞれ共通キャリア・スキルフレームワークのレベル1、2、3相当とすることも明記した。これを具体化したのが今回の改訂である。

 ITSS V3により、情報処理技術者試験とITSSとの関係が明確になった。レベル1~3の“レベル感”が業界で統一されるメリットもある。「ITSSのレベル感は、企業によってばらつきがあるのが現状。情報処理技術者試験と対応付けたことで、業界全体でレベル感のコンセンサスが得られる。協力企業のエンジニアの評価や転職活動にもITSSを利用しやすくなるはず」とIPAIT人材育成本部 ITスキル標準センター長の丹羽雅春氏は話す。

 ここで「試験の合格は、当該レベルで最低限満たすべき基準(エントリ基準)を満たすにすぎない」(同)点に注意が必要だ。「いわば入学試験に受かったようなもの。試験の合格自体を目的化しないよう気をつけてほしい」と丹羽センター長は主張する。