長野県のケーブルテレビ(CATV)事業者と民放キー局の区域外再送信に関する協議が,最終合意に向けて大きく動き始めた。テレビ松本ケーブルビジョン(本社:松本市)とエルシーブイ(LCV,本社:諏訪市)の2社がそれぞれのサービスエリアで民放キー局5社のデジタル放送を再送信することの可否を巡る今回の協議は,2007年6月に大臣裁定に持ち込まれていた。

 しかしこのほど,事業者間の話し合いで決着する見通しになり,テレビ松本とLCVは2008年4月8日に大臣裁定の申請を取り下げた。最終合意に向けて今後両社は,民放キー局5社と個別の協議に入る。

 裁定申請と並行して行われた,CATV事業者と民放キー局の協議では双方が歩み寄り,テレビ松本とLCVが民放キー局5社のチャンネルを再送信することで基本合意した。テレビ東京を除く4社のチャンネルは,地上アナログ放送が終了する2011年7月から3年間(2014年7月まで)の期間限定で,テレビ東京のチャンネルは期限なしで,再送信を認める案が有力になっている。

 民放キー局5社とNHKは,地上波放送のデジタル難視聴世帯(地上系のあらゆる手段を駆使しても,地上デジタル放送を視聴できない世帯)をなくすため,BS(放送衛星)を使ったセーフティーネット対策を,2009年度から5年間(2014年度まで)行う計画である。民放キー局とNHKの合計7チャンネルにスクランブルをかけて,全国のデジタル難視聴世帯に放送するものである。

 CATV事業者による区域外再送信の終了時期をセーフティーネット対策に合わせれば,長野県内の地上波放送事業者の経営に与える影響を少なくできる。このように考えて,テレビ東京以外の4チャンネルの区域外再送信に2014年という期限を設けることになったようである。最終合意に向けた個別交渉では,テレビ松本とLCVが民放キー局4社に対価(再送信料)を払うかどうかなどが焦点になりそうだ。

 地上デジタル放送の区域外再送信に関する事業者間の協議が決裂して大臣裁定に持ち込まれた過去のケースには,大分県のCATV事業者と福岡県の地上波放送事業者の事例がある。このときは2007年8月13日に裁定が下り,CATV事業者による区域外再送信が全面的に認められた。その結果に日本民間放送連盟が反発し,大臣裁定制度の撤廃などを総務省に求める事態になった。

 大分県の裁定を機に,総務省は区域外再送信の在り方を見直す研究会を立ち上げた。CATV事業者と地上波放送事業者は,大臣裁定に頼らない解決方法の検討を開始した。今回の長野県の事例は,区域外再送信に関する今後の事業者間協議のモデルケースになりそうだ。