WBSは,見積もりの主要なツールの一つである。WBSとは,プロジェクトの成果物あるいは仕事(Work)を詳細化(Breakdown)して階層構造(Structure)で表現した図表のこと。WBSを作成する際のポイントは,プロジェクトで実施されるすべての作業を洗い出し,コントロールできる単位まで詳細化することである。

 WBSを作成すれば,作業の漏れや重複を防げる。また,プロジェクト関係者の間で,成果物や作業などの認識のズレを解消できる。プロジェクトの成果物や仕事の責任分担を明確にすることもできる。

 ただ,すべての作業を洗い出し,WBSを作成したからといって安心はできない。WBSをどのように書くかが重要である。

 例えば,WBSにユーザーが作成する「業務手順書」があり,責任分担の「主担当:お客様」「支援:ベンダー」と記載してあったとする()。プロジェクト遂行中に業務手順書の作成が遅れると,ユーザーは「ベンダーの支援がなかったから遅れた」と言うだろう。それに対してベンダーは「お客様から支援してほしいとの依頼が無かったから何を支援してよいか不明であった」と抗弁するかもしれない。

図●WBSの記載を詳細化していく
図●WBSの記載を詳細化していく

 このような食い違いが起きるのは,責任分担の「主担当と支援」を,ベンダーとユーザーがお互いに都合よく考えてしまうからだ。このような事態を避けるためには,WBSの成果物(あるいは仕事)を,どんどん詳細化していくことが必要である。大項目であれば中項目へ,中項目であれば小項目へ詳細化することで,主担当や支援の作業は何かを具体化する。どのような作業かをイメージしやすくなり,お互いの認識のズレを解消することができる。

 開発の現場によっては,会社が用意している標準WBSを活用することもあるだろう。その場合は,臨機応変な柔軟性も必要である。枠組み(標準WBS)と現実は「≠」である場合が多い。認識のズレを無くすため,現実を枠組みに合わせるようにユーザーと交渉したり,現実に合うように枠組みをカスタマイズしたりすることも必要である。

 WBSは,成果物の内容や責任範囲の切り分けを明確にし,ユーザーに理解してもらい,認識を共有することが重要な要素の一つである。成果物や責任範囲・責任分担を一覧で見られるように,一枚の紙(A3など)に印刷し協議するなど,細かい配慮も必要である。

千種 実(ちくさ みのる)
日立システムアンドサービス
プロジェクト推進部 部長
1985年,日立中部ソフトウェア(現 日立システムアンドサービス)に入社。入社以来,一貫してプロジェクト管理に従事。PMOの立場でトラブル・プロジェクト支援を数多く経験した後,社内のプロジェクト管理制度の構築やプロジェクト管理システム(PMS)開発およびプロジェクト支援,プロジェクト・マネージャ教育講師に携わる。また,他社のプロジェクト管理に関するコンサルティングや研修講師,講演などを経験し,現在もPMOの立場からITプロジェクトを成功へ導くために幅広く,社内外で活動中。1962年,三重県出身。岡山理科大学理学部応用物理学科卒。