企業の需要が本格的に掘り起こされるのは,NGNならではの機能を使った新サービスが登場する2009年春が契機となる。これには,NTT東西自身が提供するサービスと,外部のサービス・プロバイダがNGNの機能を使って提供する独自サービスの2種類がある。

 NTT東西が提供を予定するのが「QoS保証機能付きのVPNサービス」だ。このサービスは,「単純にフレッツ・VPNゲートやフレッツ・VPNワイドに,QoS保証機能を追加するだけにはならない」(NTT東日本)という。

 QoS保証機能を使うには,NGN網への帯域確保を要求するSIP-UA機能をユーザー側のアクセス装置に搭載している必要がある。このような装置の開発にメーカーが着手している。

 SIP-UAを使えば,帯域確保だけでなく,「接続先回線の指定や回線番号による認証要求といったNGNの網機能とも連携できるはず」(NECの今井氏)という。相手の回線番号を指定し,必要に応じて通信路と帯域を確保する「オンデマンド型VPN」が実現する。(図4)

図4●2009年春に登場予定のオンデマンド型のVPNサービス
図4●2009年春に登場予定のオンデマンド型のVPNサービス
NTT東西はSIPを使って接続先や保証帯域のクラスなどをその都度指定するオンデマンドVPNを提供する予定。サービス名称,料金体系も含めて検討中である。
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 オンデマンド型VPNは企業ネットの設計手法を根本から変える。通信が発生する時しかNGN網のリソースを使わないため,原価は常時接続型のVPNよりも安くなる。自営のインターネットVPNとほぼ同等のユーザー料金で,より安全に帯域を確保した通信ができれば,NGN普及の起爆剤になるだろう。

 オンデマンド型VPNは,データ・センターへのバッチ転送など,1日に数回しか通信を必要としない用途にも適している。低コスト性を重視して採用されている既存のディジタルアクセスやISDN回線からの置き換えも進みそうだ。

 ただし,料金設定や技術仕様の検討はこれから始まるところ。NTT東西は「帯域確保は必ず必要なのか」,「従量制料金はユーザーにとって使いやすいのか」といった内容を検討中だ。

 外部のサービス・プロバイダがNGNの機能を使って提供する代表的なサービスがSaaSサービスである。SaaSプロバイダは,SNI経由でNGNのQoS保証機能などを活用して,独自サービスを提供する計画だ。フィールド・トライアル時からパートナー企業が「端末の遠隔監視」や「高画質Web会議システムを使ったリモート・オフィス」といったSaaSアプリケーションを開発してきた。

SNI活用を広げるSDP構築の準備が進行

 サービス・プロバイダは,2008年後半からの商用化を念頭に準備を進めている。NECは2008年3月末に,NGN対応のSaaSサービスの開発促進を目指す「NGNミドルウェアパートナープログラム」の設立総会を開催した(写真2)。日本オラクルやマイクロソフトなどのITベンダー10社が参加して,SaaSアプリケーションとNGNの間を仲介するSIP対応ミドルウエアのAPI共通化に乗り出す。NECは,様々なSIP対応ミドルウエア群を統合して利用できるサービス基盤「SDP」を提供する計画だ。

写真2●NECはSDP構築に向けてパートナー企業とミドルウエアAPIの共通化を目指す
写真2●NECはSDP構築に向けてパートナー企業とミドルウエアAPIの共通化を目指す

 このSDPがあればSaaSプロバイダは,自社の製品からミドルウエアを介して帯域保証機能やプレゼンス管理といったNGN網の機能を活用できるようになる。インターネット経由で提供するよりも通信の安定性やセキュリティが向上することで,企業ユーザーは本格採用に向けた検討を進められる(図5)。NECは4月の組織改編で「次世代ネットワークサービス推進センター」を新設。夏をメドにNGNの網機能を検証できる「NGN評価センター」を稼働させる。

図5●SNI経由で様々なアプリケーション・サービスが提供される可能性がある
図5●SNI経由で様々なアプリケーション・サービスが提供される可能性がある
SIPと一般的なアプリケーションAPIを仲介するSDPが整備されると,外部のサービス・プロバイダがNGNの認証や帯域保証といった機能と連携するサービスが提供可能になる。
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NTTもNGN活用検討する団体設立

 ただしNGN上で提供されるSaaSサービスの実現には課題もある。NTT東西が,SNI経由でユーザーに送信できるデータを,今のところ映像や音声などのストリーム形式に限っていることだ。

 多様なSaaSサービスを実現するには,SNI経由でストリーム形式以外のデータ通信も許可する必要がある。NGNには,このほかにも外部の事業者が活用するための条件が十分整備されていない問題を抱えている。

 NGN上のSaaS実現に向けNTT東西は,NTT持ち株会社と3社で運営する「次世代サービス共創フォーラム」で,SDP事業者やSaaSプロバイダらの要望を聞き取る方針だ。このフォーラムでは,SNIの活用を希望するパートナー企業などに,技術コンサルティングやテスト環境での検証機会を提供する。「フォーラム内で事業化のメドが付いたプロジェクトに対しては,必要となるNGNの機能をSNI経由で提供する」という。

 4月中には東京の武蔵野市と渋谷区初台の2カ所に検証センターを開設した。フォーラムには,自前でSDPを構築できる大手パートナーだけでなく,中小規模のベンチャー企業の参加を積極的に募る。

 有望なビジネスモデルがあれば,NTTが立ち上げたファンドから出資し,事業化する計画だ。NTTは2010年度までの3年間で約100億円分の新規ビジネスに投資する計画だ。