石油危機でブームになった太陽熱温水器。その後下火になっていたが、東京都が普及策をまとめるなど、見直され始めた。地中海周辺では最大の再生可能エネルギーと位置付け、大規模な太陽熱発電が始まっている。

 日本では「太陽熱」というとまず住宅の屋根に設置する温水器を思い浮かべる。1970年代の石油危機で原油価格が高騰したのをきっかけに一気に普及した。

ガスと太陽熱をハイブリッド温度バリアで断熱する住宅も

写真1●昨年4月に商業運転が始まったスペインの太陽熱発電所「PS10」
写真1●昨年4月に商業運転が始まったスペインの太陽熱発電所「PS10」
直径600mの土地に扇形に配置された反射鏡で、写真左上のタワーに熱を集める
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 しかし、石油価格が下がると急速に下火になった。2006年度の太陽熱温水器の販売量は5万3000台で、ピークだった80年度(80万台)の15分の1に減った。ソーラーシステム振興協会の試算では、2006年末時点で戸建て住宅のうち太陽熱温水器を設置しているのは約6%。7年で普及率は半分に下がった。国の新エネルギー導入目標の中でも、太陽熱の位置付けは低い。

 エレクトロニクス産業の国際競争力を高める意味もあり、国が太陽電池を優先的に支援したことや、かつての風呂釜に比べて高性能なガス給湯器が普及し、作りためたお湯ですぐに入浴できるというメリットが薄れたこと、そして一部の業者による押し売り的な販売手法で消費者の不信を買ったことも逆風になった。

 ところがここに来て太陽熱を見直す機運が高まっている。2月には東京都が、太陽熱利用を促すために、グリーン電力証書ならぬ「グリーン熱証書」(用語解説参照)の制度化を打ち出した。京都議定書の目標達成で最大の障害は家庭からのCO2。太陽熱温水器は、家庭で消費されるエネルギーの約3割を占める給湯の大幅な省エネが可能で、技術的に成熟しており投資回収もしやすい。

 長府製作所は5月、太陽熱温水器とガス給湯器を組み合わせたハイブリッド式給湯システムを発売する。一般的なガス給湯器に比べてCO2排出量を、 30~40%削減できる。本体価格は70万円台にする予定で、工事費は約10万円。省エネ効果によって10~15年程度で回収できる(太陽光発電システムは25年程度)。2つの機器を別々に設置して接続していた従来方式より2~3割安くできた。

写真2●太陽熱を使うアイソマックス住宅や太陽熱給湯システム
写真2●太陽熱を使うアイソマックス住宅や太陽熱給湯システム
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 太陽熱温水器のお湯の温度を常時計測して台所などに設置するリモコンに表示し、温度が十分ならガス給湯器を止め、そのまま使う。

 集熱板も改良した。集熱板の表面には赤外線(熱)を優先的に吸収する膜を張っている。より吸収力の高い新型の膜を採用することで、集熱効率を20%高めた。

 太陽熱を住宅の空調や断熱に利用する技術も実用化している。ルクセンブルクのクレッケ博士が考案した「ISOMAX住宅」である。既に85の国と地域で 10万戸の実績がある。日本ではアイソマックスホールディングスジャパン(東京都渋谷区)と、建築・設計会社のウィークエンドホームズ(同)が業務提携し、昨年2月に1軒目が完成した。今年2月末時点で、合計7戸が建設されている。

 アイソマックス住宅では、太さ数cmのポリエチレンの水流パイプを、屋根材の下と壁の中、そして床下と、室内空間を取り囲むように張り巡らせる。屋根で夏は80℃、冬は50℃程度に熱したお湯を循環させ、特殊な断熱パネルで覆った床下の土を15℃~35℃に温める。 夏は屋根の熱を奪って地中に蓄えるので室内の温度が下がり、冬はこの熱を暖房に利用する。家を包むように水が循環して「温度バリア」を作るため、年間を通じて室内が23℃に保たれる。さらに、外気を取り込む際には、夏涼しく冬暖かい地中のパイプを通す。空調にかかるエネルギーは、通常の建物の15分の1程度に抑えられる。価格は300万円から。