2008年4月から始まった新医療計画では、地域連携がキーワードとなる。そんな中、連携にITを利用する取り組みが増えてきた。過去の失敗例の教訓を生かした、“診療所本位”の機能が特徴だ。
秋田県は2008年2月1日、IT(情報技術)を利用した「秋田診療情報共有化システム」の試験運用を始めた。これは医療機関が、患者の既往歴、検査情報、処方歴などをインターネット上で共有するというもの。モデル地区となった横手市内の急性期病院4施設を含む15施設が参加する。
このように、ITを利用した地域連携システムを構築しようとする動きが最近目立つ。その内容は、病院の電子カルテ情報を診療所が閲覧できるシステム、患者ごとに地域の医療機関が診療情報を共有のデータベースに書き込んでいくシステムなど、様々だ。
背景には、国の政策誘導もある。2008年4月からスタートした新しい医療計画では、各医療機関が機能を分担し、地域単位で疾患別に連携体制を構築することが求められる。ITを利用すれば、紙で行う従来の連携と比べて人為的なミスを減らせたり、過去の検査、処方歴の閲覧により重複した検査、投薬を防げるなど、メリットも多い。
しかし、これまで開業医の参加が思ったほど進まず、休止に追い込まれた地域連携システムは少なくない。現在稼働しているシステムではその教訓を生かし、利用者のニーズをうまく取り入れているのが特徴だ。
低コストで現実的な機能
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「高機能で複雑なシステムを構築しても、利用者が使いこなせずコストだけがかさむことになる」と話す柴田氏 |
シンプルな機能で参加者を増やしているのが、長崎県の「あじさいネットワーク」(以下あじさいネット)だ。国立病院機構長崎医療センター(大村市)と大村市立大村市民病院の2つの病院が参加、診療所も含めた参加機関数は60施設に上る。04年にスタートし、今年4月からは長崎市内の病院、診療所も新たに参加するなど、広がりを見せるネットワークだ。
設立にかかわった大村市民病院・医療情報企画室長の柴田真吾氏は「過去の失敗例の中には、国の助成金を使って高機能で複雑なシステムを作ったあまりに、利用者が使いこなせなかった例も多く見受けられる。あじさいネットは助成金を受けずに低予算で運営してきたため、逆に現実的なネットワーク構築ができた」と話す。