プロジェクトで生じるさまざまなコンフリクトを解決する際,関係者に非公式な事前説明(根回し)をして回るやり方は有効だし,それこそPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)の仕事でもある。だが,相談相手を見極めないと,プロジェクトを混乱に陥れることがある。

後藤 年成
マネジメントソリューションズ マネージャー PMP


 「混乱が予想される議論をスムーズに進めたい」「公式の場で“思わしくない話”をするときは,ショックを軽減するために,キーパーソンには事前説明しておきたい」「電話でこの話をするのはちょっと…」――。

 非公式なコミュニケーションは,このような状況を打開し,仕事を円滑に進めるために極めて有効な手段です。公式な場では立場上「建前」しか言えない人が多いと思いますが,そんな人でも,非公式な場では本音をぶつけ合えます。利害関係者が互いに歩み寄りながら,プロジェクトの目的に向かって落としどころを探すためには,非公式なコミュニケーションが欠かせません。

 しかし,相談相手を間違えると,かえって問題を広げてしまう危険性を秘めています。

 筆者が実際に経験した話です。あるプロジェクトで,どうしても仕様変更を受け入れざるを得ない状況になり,稼働時期を1カ月延期しなければならなくなりました。筆者は,いきなり公式の場で言うといろいろ問題が発生すると考え,事前に顧客側の担当者に「5分だけよろしいですか?」と声を掛け,カットオーバーの延期について相談を持ち掛けました。

 この後,どうなったと思いますか? 筆者の意図とは逆に,大問題に発展してしまいました。

相談相手の立場や行動パターンを見極める

 筆者が相談を持ちかけた顧客側の担当者は,自分だけでは如何ともしがたいと考え,上司に「公になっていない問題が発生している」と報告してしまいました。この時点で,「非公式の相談」のはずが,「公式的な大問題」に変貌してしまいました。こちらとしては,「あなた(一部の関係者)だけにお話します」「対応策やリスケジュール案を冷静に聞いてください」という意図があったわけですが,それを全く汲み取ってもらえませんでした。結果,一時的にプロジェクトは騒然となり,問題を収拾するために,想定外の時間と労力をかける事態に陥ってしまったのです。

 筆者の認識が甘かったと言えばそれまでなのですが,相談相手の立場や権限,もっと言えばその人物の行動パターンまでを予測しておくべきでした。「5分だけよろしいですか?」という非公式的な問いかけは,多くの場合に有効ですが,相談相手がそれに対してどう反応するのか(どう反応してほしいのか)を見極めることが重要です。

 先の例で言えば,顧客側の担当者に相談の意図を伝えきれなかったことが失敗の原因でした。「次の進捗会議で稼働時期の延期を話し合いたいと考えているが,その対応策やリスケジュール案を冷静に聞いてほしい」という意図を,もっと明確に相手へ伝えるべきでした。

根回しはPMOの武器

 一般的なプロジェクトマネジメントの書籍では,「コンフリクトは表出させて,公に解決していくもの」というガイドラインがよく示されています。確かに,表には出てこない根回しでPMOが暗躍しすぎると,周囲の反感を買いやすいのも事実です。

 しかし,プロジェクト運営を円滑に進めるための根回しは,PMOにとって重要なタスクの1つです。特に日本のプロジェクト(文化)においては,すべてを表舞台に出して解決していくよりも,上手に根回しをして事前にある程度の合意を得ておくほうが得策といえます。

 PMOと「根回し」は切っても切れない関係にありますが,たった1つ,「相談する相手をよく見極めること」だけは肝に銘じてください。


後藤 年成(ごとう としなり)

 大学卒業後,ニッセイコンピュータ(現ニッセイ情報テクノロジー)に入社。システム・エンジニアとしてホスト系からオープン系にいたる幅広いシステム開発を経験した後,2002年から野村総合研究所にてプロジェクトマネジメントに携わる。2007年、マネジメントソリューションズに入社。「知恵作りのマネジメント」を支援するPMOソリューションの開発や各種プロジェクトでPMO業務に従事している。連絡先は info@mgmtsol.co.jp