フリー・エンジニア
高橋隆雄 フリー・エンジニア
高橋隆雄

 今回は2008年度最初の連載となる。そこで基本に立ち返り,Asteriskとは何かを解説する。本連載の第1回は,いまだ多くの方に読まれているが,2年前の記事であるためアップデートが必要な個所も出てきた。Asteriskの最新事情を基礎から解説する。

 「An Open Source PBX」という文言が,Asteriskのキャッチ・フレーズである。2006年3月の本連載開始時は“The Open Source PBX”だったが,2年を経て“An”に変わっている。Asteriskは“業界初のオープンソースPBX”であり,2004年9月にバージョン1.0.0がリリースされた。当初は唯一のオープンソースのPBXだったが,その後ほかのオープンソースのPBXが登場したことにより,“The”ではなくなり,“An”に変わったわけである。このことは,これまで閉鎖的でオープンソースなど存在しなかったPBX業界が変わりつつあることを意味している。Asteriskが登場したことによって,PBXでもオープンソースの有効性が認められたと言えるだろう。

 Asteriskの登場は,ほかの多数あるオープンソース・ソフトウエアに比べてかなり新しい。最初の正式版であるAsterisk 1.0は2004年9月にリリースされているので,まだ4年の歴史ということになる。オープンソースのWebサーバーとして著名な「Apache HTTP Server」の1.0は1995年にリリースされているので,これと比較すると相当新しいオープンソースと言えるだろう。無論,PBXそのものはWebよりもはるかに長い歴史を持っている。

 その後,Asteriskはバージョンアップを重ね,最新のバージョンは1.4系となっている。Asteriskのメジャー・バージョン番号はドット下の「.4」の部分で,正式リリース版は偶数番号を使う。1.0の次の正式バージョンは1.2,これに続くのが現在の1.4である。次期正式バージョンは1.6系となる。2008年4月現在,Asterisk 1.6はβ7.1の状態にある。Asterisk 1.2は2005年11月末,1.4は2006年12月に登場している。これまでは,1年に1回のペースでメジャー・バージョンアップ版がリリースされてきたことになる。1.6は当初の予定では2007年12月にリリースされる計画だったが,リリースが遅れており前述のように現在もまだβテスト段階である。

 では「Asteriskとは何か?」というと,冒頭で述べたようにオープンソースのPBXというのが最も分かりやすい説明だろう。しかしながら,Asteriskは単なるPBX(構内交換機)にとどまらず,IP-PBXの機能はもちろん,ボイス・メールやIVR(自動音声応答)のような音声サービスの機能を包含する。そのため,Asteriskは高機能なハイエンドPBXに近い機能を備えていることが分かる。

 なお,Asteriskの開発者であるマーク・スペンサー氏が創業した米ディジウムは,Asterisk Business Editionと呼ばれる製品版を販売している。これはオープンソースではない。最新の機能は常にオープンソース版に取り入れられる。Business Editionは大規模展開や相互接続性などをディジウムが担保する形で販売されている。

AsteriskはLinuxなどで動作,派生製品も多い

 Asteriskは当初Linux上で動作するアプリケーションとして開発された。このため,主なLinuxディストリビューションの上でなら大抵は動作する。Asteriskのプラットフォームとして人気があるLinuxディストリビューションは,RedHat系のFedoraや,同じRedHat系でエンタープライズ用途を強化したCentOSなどである。

 AsteriskはLinuxだけではなく,他のOSへの移植も進んでいる。FreeBSDのようなBSD系やSolaris,MacOS Xなどでも動作している。よくある質問の一つに「Windows上でも動作するか?」というものがある。回答はイエスでもありノーでもある。Windows上で動作するAsteriskは,あることにはある。だがその動作の仕組みは,Windows上でLinuxエミュレータを動作させ,その上でAsteriskを動作させるため,「イエス」とは言い切れない。