ソフトバンクモバイルが3月末に発売した「インターネットマシン922SH」は,通常の携帯電話にフルキーボードを搭載するという新しいタイプの端末だ。パソコンからインターネットに近付いたスマートフォンとはアプローチが違う922SHが,どれだけ市場を切り開くのか。その鍵はCPUの高速化が担いそうだ。

 ソフトバンクモバイルの「インターネットマシン922SH」(シャープ製)は,高機能化が進む携帯電話でも,これまでにないタイプの端末である。携帯電話のプラットフォームをそのまま使いながら,フルキーボードと854×480ドットを表示可能な3.5型の大画面液晶を搭載。Webやメールといったインターネット利用に特化した機能を強調した。

 同社の孫正義社長は2008年2月の決算発表の席で「2008年は携帯電話がインターネットマシン化する元年になる」というビジョンを示した。通常の携帯電話でも大画面とフルキーボードを備えれば,パソコン並みにインターネットを活用できるというメッセージである。922SHはそのビジョンを具現化した最初の端末と言える。

Windows Mobileとは逆の手法

 これまでフルキーボードを搭載した携帯電話は,ほとんどがWindows Mobileのプラットフォームに限られていた。いわばパソコンの世界から,インターネットの利用を携帯電話に持ち込んだ形だった。それに対して922SHは,携帯電話のOSやプラットフォームを使うという全く逆のアプローチを採用。音声通話よりもインターネットの利用を重視した機能をいくつも取りそろえた。

 ソフトバンクは922SHには,ほかのスマートフォンよりも安いパケット定額料を設定した(表1)。同社ではWindows Mobileを搭載するXシリーズのパケット定額料を上限9800円と設定しているが,922SHでは上限を5985円に抑えたのだ。

表1●ありそうでなかった,通常の携帯電話にフルキーボードを搭載する端末
フルキーボードを採用する端末はこれまで,ほとんどがWindows Mobile搭載機に限られていた。922SHは携帯電話のプラットフォームでインターネットを使うというコンセプトの下,フルキーボードを採用した。
製品名 インターネットマシン Windows Mobile搭載のX02HT
(参考)
外観 インターネットマシン 922SH Windows Mobile搭載のX02HT(参考)
OS 独自OS Windows Mobile 6
通信機能 HSDPA 3.6Mビット/秒,GSM HSDPA 3.6Mビット/秒,GSM,IEEE 802.11b/g
パケット定額料/月 下限1029円~上限9800円(フルブラウザを利用する場合、利用しない場合は上限4410円) 下限1029円~上限9800円
フルキーボード
POPメールの受信
アプリケーションの追加 ×(S!アプリのみ)
価格 9万5520円(新規一括,新スーパーボーナス加入の場合) 7万1520円(新規一括,新スーパーボーナス加入の場合)

 これは922SHには,Windows Mobile搭載機に比べて機能に制限があるから。後からユーザーが通信機能を駆使したネイティブ・アプリを追加したり,様々なフォーマットの動画を再生できるWindows Mobile搭載機のような使い方はできない。事実922SHは,Flashを利用するYouTubeの動画再生にも対応していない。

携帯電話の操作感をそのまま踏襲

写真1●本体を閉じれば通常の携帯電話と同じ外観に
写真1●本体を閉じれば通常の携帯電話と同じ外観に
閉じたままでも,発着信履歴がある番号やアドレス帳にある番号に発信できる。ただし新規の番号には,本体を開きキーボードから番号を入力しないと発信できない。
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 922SHは横開き式の本体を閉じると,通常の携帯電話と似た外観になる(写真1)。閉じた状態でも,本体表面のタッチ・パネルを利用して,電話の受発信ができる。ただ閉じた状態で使えるテンキーは実装されていない。新規の番号に発信する際には,アドレス帳に登録した番号や発着信履歴をディスプレイに表示するか,一度本体を開いてキーボードから番号を入力する必要がある。

 キーボードは携帯電話の操作性をそのまま踏襲。QWERTY配列のフルキーボードの右上に,携帯電話と同じ十字キーやメール,クリアボタンを配置した(写真2)。メニュー操作やメール機能の呼び出しを携帯電話の操作インタフェースとそろえ,初めて本機に触れるユーザーでも違和感なく操作できるようにした。


写真2●携帯電話風のキー配置を採用
写真2●携帯電話風のキー配置を採用
キーボード右上には,通常の携帯電話と同様のキーを配置。携帯電話でおなじみのクリアボタンでメニューに戻るといった使い方が可能だ。

 しかも,POP/SMTPによるメールの送受信に対応し,PIMソフトや辞書ソフトも内蔵する。各アプリケーションの呼び出しを専用ボタンに割り当て,アプリケーションの起動が素早くできるようにした。スマートフォンのユーザーにも訴求できる機能を備えている。

最後に残るのはCPUの処理性能

 922SHは下り速度が最大3.6Mビット/秒のHSDPA(high speed downlink packet access)に対応。通信の高速化に対応した機能を盛り込んだ。肝心のインターネットの使い勝手だが,横長大画面のディスプレイで,パソコン向けWebサイトでも文字列を折り返すことなく自然に表示できている(写真3)。

写真3●パソコン向けサイトを違和感なく表示
写真3●パソコン向けサイトを違和感なく表示
フルブラウザにはACCESSの「NetFront」を採用。854×480ドット3.5型の液晶画面を搭載するため,パソコン向けサイトも違和感なく表示できる。なお画面は横長表示だけで,縦長表示には対応していない。

 ただしパソコンと比べると,ブラウザの描画スピードはまだまだ遅い印象だ。同じ伝送速度のHSDPA対応のデータ通信カードをパソコンで利用する際に比べて時間がかかる。ただしこれはWindows Mobile搭載機でも同じ傾向にある。ネットワークの速度ではなく,端末のCPU速度がボトルネックになっているものと見られる。

 922SH搭載のCPUスペックは,公開されていない。今後,携帯電話プラットフォームから真のインターネットマシンを実現していくには,CPUの高速化が必須になるだろう。

 パソコン側のプレーヤーからのアプローチとしては,米インテルが4月にモバイル機器向けに消費電力を抑えた高速CPUを発表するなど,高速化に向けた取り組みが一足先に動き出している。MID(mobile internet devices)などの端末も2008年夏に登場する見込みだ。小型インターネット端末の座を巡り,携帯電話からとパソコンからのアプローチがせめぎ合う方向性が見えてきた。