“馬鹿の一つ覚え”という言葉は、三菱東京UFJ銀行の情報システム統合に関する新聞やテレビの報道にふさわしい。同行が3年前の2005年2月に、旧東京三菱銀行のシステムに一本化することを決めて以降、マスメディアは開発を進める同行の足を引っ張る報道を繰り返している。この5月からいよいよシステム一本化作業を始める同行にとって、最大のリスクはマスメディアの報道姿勢と言っても過言ではない。

 システム一本化を巡るマスメディアの論調は、「統合作業に不安が残り失敗して大混乱が起きるかもしれない、その場合経営トップは責任を取るべき」「仮に成功したとしても、総額3300億円というシステム投資は多すぎる」というものだ。そして、統合作業を難しくし投資増を招いた原因として「旧UFJ銀行のシステムを残さなかった」ことを挙げる。UFJ銀のシステムではなく東京三菱銀のそれを選んだ前後に指摘するならまだしも、3年も経ち一本化作業が大詰めを迎えている今になっても「UFJ銀のシステムを選べばよかった」と言わんばかりの報道をするのは異常である。

無関係な案件を持ち出し「試金石」と書く新聞

 難癖をつけようとするあまり、マスメディアは時に滑稽なことを書く。今年1月4日、三菱UFJ信託銀行が統合システムを動かした際、4店舗でキャッシュカードが使えなくなった。朝日新聞は5日、「同信託と三菱東京UFJ銀行はそれぞれ(中略)完全統合を1年がかりで進める計画で、先駆けて統合作業に入った信託のトラブルは計画に不安を投げかけた」と報じた。その根拠として同じ記事に朝日は「(信託のシステム統合は)『銀行側の統合が成功するか否かの試金石』(行内関係者)とも見られている」と書いた。

 三菱東京UFJ銀行内にこうした見方をする“関係者”がいるとは信じ難い。言うまでもないが、三菱東京UFJ銀行は三菱UFJ信託銀行とは別の会社であり、両行のシステム統合の間に関係はない。仮に日産自動車の新車開発が遅れたからといって、ルノーの新車開発に不安あり、と報じるだろうか。システム統合の計画に「不安を投げかけた」のは信託のトラブルではなく、朝日新聞の方である。

 一方、日本経済新聞は4月5日、「システム統合 『史上最大の作戦』始動」と題した囲み記事を掲載、最盛期に6000人ものシステムエンジニア(SE)を動員する史上空前の開発規模になった理由として、「ある大手銀幹部は『業界で最先端だった旧UFJ系ではなく、旧東京三菱系に合わせてコストが膨らんだ』と指摘。主導権争いが巨大投資につながった面もある」と書いた。自行を含め大手銀行数行のシステムの優劣を見極められるとは、大変な見識をお持ちの“ある大手銀行幹部”がいたものである。

 余談になるが、あるテレビ局は先頃「旧UFJ銀のシステムを選ぶべきであったのに間違った経営判断をした」という内容の番組を企画したものの、台本に沿った発言をする識者を見つけられず、内容を軌道修正して放映した。日経新聞に頼み、“ある大手銀行幹部”を紹介してもらえば、目論見通りの番組が作れたのに惜しいことであった。新聞なら「関係者の見方」と書いておくだけでよいが、テレビは実際の人を出演させないといけないから難しい。

 三菱東京UFJ銀のシステム選択に関して筆者は3年前、2005年2月23日付の本欄(当時は日経ビジネスEXPRESS)に一文(システム一本化で押し切った東京三菱銀の畔柳頭取、「ITに強すぎるがゆえの苛立ち」)を書いているので、その一部を下記に再掲する。三和銀製システムとあるのはUFJ銀のシステムを指す。

 「もし現行システムを生かすのであれば、存続させるシステムは三菱銀製にせざるを得ない。三菱銀製システムが三和銀製システムより優れていようが劣っていようが関係ない話である。存続行は東京三菱銀なのであるから、事務の仕組みは東京三菱銀に統一され、従って事務を支える情報システムも三菱銀製ということになる。システムは事務に従い、事務は経営に従うのである。」