嶋岡 正充(しまおか まさみつ)
ソニー生命保険 取締役 執行役員 常務

 今,システム開発・運用の現場は,とても厳しい環境に置かれている。経営者やエンドユーザーが考える各種施策の実現に向けた工程の最後尾を受け持ち,納期や予算についてデッドラインを課せられる。エンドユーザーの矢面に立つ情報システム部門はもちろん,開発や運用などの業務を委託されるベンダーはなおさらである。

 多くの場合,一般的な他のビジネス業務とは異なり,自分たちの都合で先送りすることが許される状況にはない。「計画通りに稼働するのが当たり前」「ダウンしないのが当たり前」といった厳格な対応が求められる。システム開発・運用の現場はいつも追い込まれた立場で苦労しており,見えないところで組織全体を支えている。

 しかも,今,企業は各部門が一つの目標に向かって効率的に動くことが難しくなっている。決定プロセスや業務が複雑化して,全体を見通せる人がいない。成功体験から抜け出すことができず,思い切った改革が進まない。顧客第一主義という方針はあっても具体的に顧客への提供価値が明確でない…といった色々な要因がある。結果として,物事がなかなか決まらない。

損な役回りを担うのが現場

 開発・運用の現場は,組織全体に横たわる問題のしわ寄せをもろに受ける。開発プロセスの中では「要件が決まらない」「スケジュールが遅延する」「複数部門の利害が一致しない」「客観的に見て疑問のある結論が出ている」といった経営や他部門に起因するとも思える問題が多く発生する。それを先送りして表面的に決めたことにして開発を進めてしまうと,後でものすごい手戻りが発生することになる。稼働したシステムが有効に活用されないことも起こる。

 そんなとき,システム開発・運用の現場は調整役を請け負ったり,エンドユーザーの視点で検討内容をチェックしたり,担当部門に代わって案を提示したりする,など副次的役割を担うことが多いだろう。このような役割を果たすには,それぞれの意見をくみ取り,うまい解決策を生み出していく“損な役回り”を引き受ける必要がある。

度量の大きさが必要

 損な役回りを担うには,度量が大きくなければならない。業務負荷の不公平を気にせず,他人に批判的にならず,目的のために最善を尽くせる“器”が必要になる。是非そういう自覚を持って業務に臨んでもらいたい。

 器の大きさは,各人が担当するプロジェクトを完遂するのに欠かせない条件であるが,私が現場に期待するのはその先である。組織全体のしわ寄せを受けるということは,組織全体の問題がよく見えるということである。つまり,開発・運用の担当者は全体最適を考えられる立場にもある。現場で感じている組織の課題は結構あるのではないかと思う。

 業務部門のしわ寄せを何とか吸収して与えられた案件をこなすばかりでなく,むしろ自ら声を上げて改善への指針を示したり,時にはあえて放置して問題を大きく表面化させてみる。そういう形で,組織全体の強化にまでつなげていける力が,企業の業績を上げ,ひいては世の中の発展に貢献する現場力と考えている。システム開発・運用の現場で汗を流している人たちの活躍の場は,今後ますます増えていく予感がする。