「学ぶ力」で取り上げた野田氏が,Openthologyに出会えたのは社外の活動に頻繁に参加していたからだ。野田氏はこう指摘する。

 「自分の選択や方法が正しいのか,もっとよい選択や方法があるのか,社内で仕事をしていたら分からない。外に出ると,社外の人と共感できたり,判断する材料を得られたり有益なことがたくさんある」。

 「伸ばす力」で取り上げた日本トラスティ情報システムの益田氏は「技術者には,メーカー主催のセミナーや展示会に自由に行かせるようにしている」という。そうしないと新技術や業界の動向をフォローできないためだ。

 第7の力は「出る力」である。社外に出て,外部から情報を集めたり,自分のやり方の妥当性を検証したりする力である。

セミナーや勉強会に参加する

 長谷工コーポレーションでシステム運用を担当する中庭照仁氏(ITマネジメント部 副参事)は以前,自分の持っている情報に不安を抱えながら仕事をしていた。

 「極端な例かもしれないが,2000年ごろに社内ネットワークをイーサネットで再構築した。IBM製品で固めていたので,その時期までは大規模な社内ネットワークと言えばトークン・リングしかないと思っていた」(中庭氏)。

 メーカーの営業担当者など一つの情報ソースに頼り切っていたので,イーサネットの有効性に気づかなかった。それを反省し,その後,積極的に社外との交流を図るようになった。中庭氏が経験した,出る力で問題を解決した例を二つ紹介しよう(図11)。

図11●社外に出ると,分からなかったことが分かる
図11●社外に出ると,分からなかったことが分かる
長谷工コーポレーションの中庭氏は,社外の会合に積極的に参加することで広く情報を集め,隠れていた問題を発見した

(1)グループ会社のミーティング

 東西のグループ会社で働く情報システム担当者約30人が月1回,2時間程度集まり,お互いのIT投資を合議する。当初はグループ会社間の情報交換を目的に始め,今ではここで合意を得た案件を取締役会に進める諮問機関としての役割を担っている。

 中庭氏が中心メンバーの1人として開催しているこのミーティングを始めるまでは,各社の情報システム担当者はIT投資金額の妥当性を判断できる材料が少なかった。「相場観のない状態でベンダーとバラバラに価格交渉していた」(中庭氏)。

 このミーティングを実施するようになってから,各社の見積もり情報を照らし合わせてみると,外部委託先に発注する際の相場がだんだん見えてきた。同じようなスキルのプログラマ単価で2倍近く開きがあることが判明することもあった。

(2)メーカー主催研究会

 メーカーが主催する研究会に月に1回のペースで参加している。テーマは「インフラ管理者の課題」「セキュリティ対策のあり方」などシステム運用担当者に関係あるものを中心にさまざま。「メーカー主催ではあるが,製品の購入を押しつけられることはなく,自由な雰囲気で議論ができる」(中庭氏)場だという。参加者も情報システム部門の担当者,ベンダー,学校関係者などバラエティに富んでいる。

 スパイウエア対策ソフトの導入を検討していたときのこと。「ベンダー担当者は使い勝手の良さを強調するばかりで,デメリットは何もないように聞こえた。しかし,研究会でその話をすると,毎日,万単位のスパイウエアが検出されるので,運用を考えないといけないとアドバイスされた」(中庭氏)。それを踏まえた運用を考えた。

 実際,導入してみるとその通りで,1日あたり5万~6万件のスパイウエアが検出された。「自分たちの持っている偏った情報だけでは不安がある。外部の視点や情報を得て安心できる。」(中庭氏)という。