「技術者と言ってもピンからキリまである。外部委託先の中には,指定しないとセキュリティ上問題のあるデフォルト設定のまま納品してくるなど,とてもプロと思えないような仕事をするところもあった」。

 そう語るのは,東建コーポレーション 業務改革本部 電算室室長 小山伸治氏。ベンダーは技術力がなければ信頼されない。また,たまたま発注したベンダーに力がなければユーザーはそれを自分たちで補わなければならない。

 技術者が必要なスキルを身に付けるのは,当たり前のことである。しかし個人の自発性に任せているだけでは,スキルに濃淡ができてしまう。第6の力は,技術者がスキルを磨けるように働きかける「伸ばす力」である。

必要なスキルを見極める

 伸ばす力は,その現場に必要なスキルを養成する力である。案件をこなす中で見えてきた必要なスキルを適切な人材に学ばせることもあれば,スキルマップを作成して体系的に育成することもある。

 東建コーポレーションの場合,必要なスキルはアーキテクチャ設計だった。同社では1人の技術者が一つのシステムを担当してきたが,だんだん支障を来すようになってきた。「それぞれの担当者は業務をよく分かっている。プログラムもうまく書ける。しかしアーキテクチャ設計で苦労することが多かった」(情報システム部 メディアサポート課 課長 大塚基喜氏)。

 そこで担当者の1人,平井宏治氏をアーキテクチャ設計の専任担当者に任命した。システムを設計する際には,ロジックの設計以外にも,バックアップや二重化といった運用,接続するネットワークなど考えるべきことがたくさんある。機器同士の相性や設定の妥当性など,調べなければならないこともたくさん出てくる。平井氏は,それらを一手に引き受ける,通称“ラボ”としてスキルを伸ばしていくことになった。

 大塚氏は平井氏にラボとしてのスキルを向上させるのと同時に,仕事の進め方を考えるようにうながした。図9はそれを受けて平井氏が用意した,ラボを利用するときに使うドキュメントの一部である。他の担当者は,アーキテクチャ設計についてはラボに任せることでロジック開発に専念できるような仕組みができた。

図9●東建コーポレーションの“ラボ”が作成したドキュメント
図9●東建コーポレーションの“ラボ”が作成したドキュメント
ラボは,現場が効率的な仕事の進め方を追求する中から自然発生的に生まれた。ロジック作成よりもアーキテクチャ設計が得意なメンバーを専任担当者としてアサインしたことで,チームとしてアーキテクチャ設計の能力が向上した

育成の仕組みを考える

 どんなスキルが必要になるかは,それぞれの現場が置かれた環境により異なる。信託銀行のシステムの開発・運用を請け負う日本トラスティ情報システムの場合,「メインフレームの資産を引き継ぎ,次の世代にも引き継いでいくことが当社の課題」(システム企画部長 益田美貴氏)という環境に置かれている。

 その役割を担える人材を育てるため,詳細なスキルマップを作成し,キャリアパスを描いた。情報処理の基礎と並んで土台に位置づけているのが,COBOLやPL/IJCLといったメインフレームのスキルである。「メインフレームは,オープン系システムを含むすべての基本になっている」(益田氏)との考えからだ(図10)。

図10●日本トラスティ情報システムのスキルマップ
図10●日本トラスティ情報システムのスキルマップ
若いうちにメインフレームの技術を徹底的に学ぶ

 スキルを学びやすい仕組みも整備した。大部屋のような開発チームである。入社1~2年目の技術者を1カ所に集め,3年目,4年目,10年目の先輩技術者を1人ずつ入れたメンバーで構成する「同じ職場の先輩と年齢が離れていると,役割が違うからうまく学べない。少し上の世代がいる環境の方が学ぶ内容がたくさんある。切磋琢磨もできる」との考えからだ。競争心や一体感などが見られるようになり,効果を感じているという。