遠藤功氏は“現場の自律的な問題解決能力”を現場力と定義した。この定義をシステム開発・運用の現場に当てはめたら,どういう姿になるのか。実際に問題を設定し,解決した事例を通じて強い現場の姿を探っていく。

 開発・運用の現場では日々,様々な問題に直面する。そうした問題を自ら解決に導くのが現場力だ。中電技術コンサルタントの中祖泉氏(情報化推進室 副長)は,ソフトウエアのバージョンアップに伴うデータ移行で,システムが動かないという壁にぶつかった。別の移行方法を粘り強く試し,成功へたどり着いた。

 問題とは,表面化してしまったものだけを指すわけではない。まだ表に出ていない隠れた問題を,表面化する前につぶすのも現場力である。東京カンテイの瀧内誠氏(システム部 課長代理)は「システムがダウンしないのは偶然ではない」と語る。CPUやメモリーなどリソース使用率の監視や余裕を持ったキャパシティ計画,保守しやすいアプリケーションの構築,前任から後任へのノウハウの継承。そうした地道な作業を繰り返すことによって,瀧内氏はシステムを支えている。

 たとえ業務は問題なく回っていても,現状に満足せず,さらに改善していくのもまた現場力である。日本ベーリンガーインゲルハイムの天川猛氏(グループマネージャー サービスマネジメント)は,業務効率を今よりもっと上げることができないか,頭をひねっていた。「オペレータは一生懸命頑張っている。なのに,ヘルプデスクの平均応答時間がどうしても短くならない」(天川氏)。システム運用の標準ガイド「ITIL」を導入してオペレータが超えられずにいた限界を超えた。

問題解決は日常業務

 うまくいく事例には共通点がある。それは,問題の設定と解決が日常業務の中で処理されるということだ。強い現場は,問題の洗い出し,つぶすまでのプロセス,そのためのスキルの習得,情報収集など,問題解決に必要な要素のすべてが日常業務の中に組み込まれている。日常業務の中に,スパイラル的に強くなっていく仕組みが用意されている。

 ソニー生命保険は,システム障害が減らないという悩みを抱えていた。それを,この4年間をかけて半減させた。推進役となった河村芳樹氏(業務プロセス改革本部 情報システム2部 統括部長)によると「毎月,実施している障害対策検討会がうまく回るようになった」と言う。

 日本旅行では,半日かかることもあったシステム障害の原因究明を,ある時,数分に短縮した。山本康二郎氏(メディアミックス営業部 旅ぷらざチーム)は「システム監視がうまくいくようになった」と語る。

 ソニー生命保険では以前から同様の会議を実施してきたし,日本旅行ももちろんシステムを監視してきた。ただ,両社ともそうした日常業務のやり方に工夫を加えた。仕組みを変えたことで,それが劇的な効果を上げ,迅速な問題解決に結びついたのである。

“7つの力”を意識しよう

 今,システム開発の現場は非常に厳しい環境にある。要件はあいまいなことが多い。ステークホルダーは増え続ける。品質要求はますます厳しい。しかも納期は短い。現場が抱える問題は,よりシリアスになってきている。取材の中で出てきた問題を,ざっと挙げるだけでも次のようなものがある。

図1●強い現場になるための“7つの力”
図1●強い現場になるための“7つの力” [画像のクリックで拡大表示]
  • エンドユーザーの業務が分からず,要件定義できない
  • 必要な工数をそのまま積み上げると納期に間に合わない
  • 外部委託先に発注した成果物の品質が悪い
  • 問題を担当者が抱えてしまって報告されない
  • 外注しているプログラマ単価の相場が分からない

 こうした問題を見過ごせば,失敗プロジェクトやシステム障害の温床となる。日常業務の中で問題を洗い出し,解決していった事例を取材すると,こうした問題を解決するために欠かせない“7つの力”が浮かび上がってきた.。(図1)。みんなが7つの力を意識して,強い現場に変えよう。