2006年12月26日、年の瀬が近づいた深夜のこと、東京・大手町にあるNTT コミュニケーションズのネットワーク監視室のコンソール画面が赤く光った。通信回線の異常を知らせるアラームである。海底ケーブルの異常のようだ。

 その日の当直担当者は、手順通り、通信経路を別の海底ケーブルに変更する作業に取り掛かった。海底ケーブルは通常、深さ1000~2000メートル程度の大陸棚では、漁船の底引き網や鮫などに引きずられないよう、陸地に埋め込まれて敷設されている。それでも時々は、海底地形の変化などによってケーブルが表面に出て損傷を受けるケースがあった。そのような時のため、回避させるルートがあらかじめ決まっている。

 しかしその日はそれではすまなかった。今度は回避先のケーブルにまで、異常を示すランプが灯ったのだ。

直径250キロメートルに及んだ影響

 ほぼ同時刻に、KDDI やソフトバンクテレコムといった国際通信サービスを手掛けるほかの事業者も、異常事態に気付いていた。未明近くになると、どうやら26日21時半ごろに台湾沖で地震があった、という情報が各事業者に届き、地震による障害であることが判明した。

 台湾南西沖には、8本もの海底ケーブルが集中して敷設されている。これだけケーブルが集中している地域は、世界的にも珍しい。その8本すべてが切断されてしまった。もはや、回避するルートは台湾沖には残っていない。被害の状況から、実に直径250キロメートルにもわたって、地震の影響があったと推測される。

台湾沖地震で切断された海底ケーブル
台湾沖地震で切断された海底ケーブル

 地震発生からしばらくたった深夜になってから通信障害が発生したのは、地震によって生じた断層によって海底ケーブルが徐々に引っ張られたため。その重さでちぎれてしまうまでに、数時間かかったとみられる。「このように回避先の海底ケーブルまで切れてしまうことはまれだ」(NTTコミュニケーションズカスタマサービス部の平良聡担当課長)。


広範囲で通信不能に

 この地震による通信障害は、各方面に大きな影響を与えた。NTTコミュニケーションズの場合、専用線サービス146回線をはじめ、フレームリレー18回線、IP-VPN71回線、国際フリーダイヤルなどが利用できなくなった。KDDIのサービスでも専用線サービスやIP-VPNサービス、国際電話サービスなどが利用できなくなった。ソフトバンクテレコムでも、専用線やフレーム・リレーのサービスなどで支障を来した。

 通信障害が発生した地域は、中国南部地域のほか、シンガポール、フィリピン、インドネシアなど広範囲にわたった。いずれも、台湾沖を通る海底ケーブルが陸揚げされる香港を経由して日本や米国と通信していた地域である。

 回線が復旧し始めたのは、地震発生翌々日の28日。各通信事業者は、通信ルートを中国のほかの都市や他国に大きく迂回することで通信を復旧させ始めた。海底ケーブルそのものの修理には、1カ月以上がかかるためだ。

 NTTコミュニケーションズが採った策は、香港まで別ルートで通信できるようにすること。大きく迂回するよりは通信速度の低下が小さく、香港から先は従来通りに通信できる。中国の通信キャリアと直接交渉を開始し、28日に上海から香港までの大容量回線を確保する(図11)。すでに上海までの通信経路は保持していたため、通信速度の低下はほとんどなく、通信を回復できるようになった。

図11●台湾沖にある8本のケーブルがすべて通信できなくなった
図11●台湾沖にある8本のケーブルがすべて通信できなくなった
香港を経由するルートを採用する通信事業者のサービスに影響が出た

 KDDIは3ルートに迂回させた。NTTコミュニケーションズ同様、上海経由で香港に迂回するルートのほか、グアム、フィリピンを経由するルート、さらに衛星回線も使った。