緻密なマーケティングが主流の日本のコンビニ業界。しかし、そのシステムをそのまま中国に持ち込んでも使いこなすのは難しい。ファミリーマートは、中国の事情に合う機能に絞った店舗システムを、現地で開発した。

上海にあるファミリーマートの店舗
上海にあるファミリーマートの店舗

 小さな店が建ち並ぶ上海市の中心地に、日本の店構えとそっくりのファミリーマートの店舗がある。店内に足を踏み入れると、日本でおなじみのチャイムが出迎える。店舗内の商品の配置や品ぞろえも、日本と見間違うほどそっくりだ。

 ただその店舗を支える情報システムは“日本流”ではない。台湾ファミリーマートのものをベースに、中国市場向けに開発した独自のシステムである。上海福満家便利公司(上海ファミリーマート)董事長室資計部の加計朗 経理は、「日本と中国では、コンビニエンス・ストアが置かれている状況や、ITの成熟度が全く異なる」と指摘する。

 日本のコンビニエンス・ストア各社は、季節や気候、地域性などを分析して品ぞろえを変えるなど、店舗システムに改良を重ねている。優れた機能をふんだんに搭載した、ノウハウの固まりである。にもかかわらず、上海ファミリーマートは、日本の店舗システムを持ち込まなかった。

法制度の違いがシステムに影響

 店長は日々、バックヤードに設置してある「ストア・コントローラ」と呼ぶシステムを使って、売り上げや製品情報を確認する。その上で店頭の品ぞろえを決め、FAXを使って本部に注文を送信。店内では店員が、紙を挟んだクリップボードとペンを片手に、商品の店頭在庫を数えて回っている。

 現在、上海ファミリマートが使用しているのは、日本の2世代前に相当する機能を持つ店舗システムである。あえて店舗システムの機能を限定するのには、いくつかの要因がある(図4)。

図4●ファミリーマートは、日本とは異なる中国の実態を踏まえてシステム化方針を固めた
図4●ファミリーマートは、日本とは異なる中国の実態を踏まえてシステム化方針を固めた

 1つは、コンビニ業界を取り巻く、法制度の違いである。中国のフランチャイズ・チェーン(FC)制度は日本と異なる。日本ではFC店が仕入れた商品はFC店の資産だが、中国では店頭で販売するまで上海ファミリーマートの資産。極端に言えば、商品が売れ残ってしまっても店舗にとっては大きな痛手にはならない。日本ほど、品ぞろえの重要性が高くないのだ。

 このため、FCオーナーの、システムをしっかり活用して品ぞろえを熟慮し、売り上げを伸ばすという意識が、日本に比べると低い。「どうしても本部の指示通りに発注する中央集権型になりがち」(加計氏)だ。

 もう1つ大きいのは、通信インフラの違いである。世界的にみれば、日本のようにブロードバンド回線が99%以上の地域に張り巡らされているほうが、むしろまれだ。中国ではようやく都市部でADSLを使ったサービスが普及し始めたところである。しかも、「最も高速な1Mビット/秒のサービスでも、実効速度は256kビット/秒出ればいいほうだ」とされるほど遅い。

 システムを開発した2004年時点では、電話回線のほかは選択肢がなかった。本部とは電話回線を使ったダイヤルアップ接続によってデータを送受信する仕組みである。システムもそれに合わせた設計にせざるを得ない。日本のようにプッシュ型で店舗におすすめ商品情報を送り込む、といったことは難しい。光ファイバやADSLを使ったブロードバンド回線であれば、画像を使った詳細な商品情報なども配信できるが、最大56kビット/秒のダイヤルアップではそれもままならない。

 実際に店舗システムと本部システムが稼働したのは、第1号店開店に遅れること半年の、04年12月。開発したのは、共同出資先である頂新国際グループのシステム関連子会社である。

売り上げ管理機能を強化

 04年12月に店舗システムを稼働してから2年半、上海ファミリーマートはここにきて、機能強化に着手し始めた。新たに、店舗からの発注管理機能をリリースし、07年4月から店舗に展開した(図5)。商品別の販売実績などを分かりやすく表示し、店舗による発注をより効果的にするためのものだ。「徐々に道具立てをそろえ、発注の重要性を理解してもらう」(加計氏)。

図5●ファミリーマートが4月以降に本格展開している新店舗システムの画面
図5●ファミリーマートが4月以降に本格展開している新店舗システムの画面

 「今はコンビニという業態を中国に浸透させるのが先決、という状況だ」と加計氏は打ち明ける。ペットボトル飲料に3元出すならほかのモノに使う、という中国人は少なくない。上海市の中心部であっても、貧富の格差は歴然としている。

 日本でもコンビニが生活に浸透するまでには時間がかかった。「中国はまだまだこれから。情報システムはマーケットの成熟度を見ながら、必要な機能を取り入れていく」(加計氏)というのがファミリーマートの基本方針だ。



過去に掲載したグローバル・ソーシング関連特集

中国で激化する技術者争奪戦(全5回)
グローバル・ソーシングに挑む ユーザー企業17社の決断(全18回)
オフショア最前線(全9回)
ベトナムの底力(全13回)
押し寄せるインドのITパワー(全10回)
これがITのチャイナ・リスクだ(全7回)
グローバル・ソーシングを語る(全4回)