Forrester Research, Inc.
マーク・セシール バイス・プレジデント兼プリンシパル・アナリスト

 CIO(最高情報責任者)にとって,IT組織の設計は必要不可欠な権限だ。IT部門の構造を変え,コスト削減やサービス向上,ビジネスの俊敏性を上げる,といったことを実現できるからだ。しかし,そこには落とし穴がある。フォレスターはこれまで数百ものユーザーにおけるIT組織の再設計を評価してきた。これに加えて今回25ユーザーのIT部門を深く分析し,組織設計にまつわる10のミスを見いだした()。

表●IT組織の設計で犯すミス
 ミスの内容
1文化と構造の不一致
2ITの目標と一致しない管理
3ITの方向性と異なる評価尺度
4戦略機能の弱体化
5機能グループを極度に断片化
6不適切なペースでの移行
7ベンダー・マネジメントの断片化
8大規模案件を脆弱な体制で支援
9機能セグメント化によるバリア
10過度に広い管理範囲

 良い設計をしていると言える企業は,ITに会社のビジネスの方向性をサポートするためのプロセス,構造,文化をきちんと組み込んでいる。つまり,CIOがビジネスとITの同調に成功している。

 一方で悪い設計の企業はITがビジネスの動きを妨げるような障害となってしまっている。間違った設計はビジネスとの結びつきを弱めてしまい,企業文化を破壊してしまうことさえある。

(1)文化と構造の不一致

 社内の行動規範を無視するような組織構造を作ってしまうと,衝突が発生し問題を引き起こす。

 200人のIT部員を抱えるある通信販売会社のグローバルを管轄するCIOは,IT投資の案件に優先順位をつけるため全社委員会を立ち上げた。しかし,2回のミーティングの後,事業部門の責任者たちは委員会への関心を急速に失い,CIOは委員会を解散した。
 委員会の設立前は,投資をするかどうかの決定権を,側面しか見ないで決定を下すCEO(最高経営責任者)に置いていた一方で,それぞれの事業部門ではリーダーが掌握する範囲において個別に判断を下しているという構図だったからだ。結果として,従来通りの狭い視野での判断がくだされることとなった。インフォーマルな決まりごとなど企業文化に一致しないような組織改革が失敗した例である。

(2)ITの目標と一致しない管理

 ある大手生命保険会社はコストを急速に引き下げるため,小規模なベンダー・マネジメント部隊を作り,ITベンダーへの支払いコスト圧縮に乗り出した。しかし目標を達成できなかった。

 事業部門はベンダー・マネジメント部隊からベンダーの名前や情報を教えてもらうものの,最終的には他の情報ソースを当てにしたのだ。いくつかのベンダーとの関係は良好になったが,コスト削減にはほど遠かった。

 ベンダー・マネジメント部隊にあまりにも小さな権限しか与えなかったため,コストを最小化するという変革を起こせなかったのだ。意思決定のスタイルは組織の目標に合っていないといけない。

(3)ITの方向性と異なる評価尺度

 金融サービスのある会社はITアーキテクトにリーダーとしての「指導力」を求めていた。しかし,仕事の成果を「遂行能力」が長けているかどうかで評価していた。そのため矛盾が生じてしまった。

 この会社はITアーキテクトを,15から20項目の遂行能力で定期的に評価していた。これによって,ITアーキテクトたちは技術を主導する「テクノロジー・リーダーシップ」に対する会社の期待を無視し,リストに挙げられた項目のクリアに集中するようになったのである。

 本来の目標と異なる基準を提示してしまったために,ITアーキテクトがビジネスを理解しない“コンピュータオタク”という社内の見方を裏付けることになってしまった。

 組織の目標や原則と一致しない基準は,間違った行動へと追いやる。

(4)戦略機能の弱体化

 アーキテクチャ,計画,ベンダー・マネジメントなど非生産的とされる部隊が構造的に弱められているケースがある。大きな予算の確保,キーとなるシステムやサービスの管理,顧客の所有権といった点だ。CIOはさらに部隊を分割したり,プロジェクトへの関与を弱めることなどを画策する。

 こうしてある旅行会社はITアーキテクトの力を弱め,戦略的な思考ができなくなってしまった。ITアーキテクトをさまざまな部隊に分散させ,日々の“火消し作業”に従事させている。これでは,長期的に価値のある標準やプロセスの策定に専念できるはずがない。

(5)機能グループを極度に断片化

 あるメディア企業はアプリケーションのグループを細分化した。150人のアプリケーション部隊を11ものグループに再編したのである。それも,顧客,商品,地域,技術といった不可解なグループ分けだった。結果としてアウトプットの品質が低下してしまった。

 それぞれのグループで,要件定義,開発,テスト,運用といった専門家が不足していった。特にテストと再利用の領域でうまくいかなくなった。つまり「組織の断片化」が起きたのだ。