「私的録音録画補償金制度」の見直しを巡る議論が,一つの山場を迎えている。補償金制度について議論している文化庁の文化審議会著作権分科会の「私的録音録画小委員会」において,2008年1月に「著作権保護技術と補償金制度について(案)」が提示された。その骨子は,「現行の補償金制度の対象を段階的に縮小し,契約や著作権保護技術により権利者の経済的利益の確保を実現する方向で検討を進めるべき」というものだ。ただし例外として,無料デジタル放送などの新しいコピー制御方式である「ダビング10」などは,「補償金制度による対価の還元を検討する必要がある」とした。

 これに対して権利者団体は,「無料デジタル放送などにおけるダビング10の採用は,権利者に適切な対価を還元することが前提になっており,そのための法制度である補償金制度は不可欠」と主張している。一方,電子情報技術産業協会(JEITA)は,「著作権保護技術や契約によって権利者の利益が守られるのであれば,(補償金制度による)補償は必要ない」(亀井正博・著作権専門委員会委員長)という姿勢を示している。

 無料デジタル放送のコピー制御方式をコピーワンスからダビング10に切り替える予定日は2008年6月2日で,残された時間は2カ月を切っている。このような事情もあり小委員会では2008年5月に,1月の案をベースにした見直し案が改めて提出される予定だ。小委員会のメンバーはこの見直し案を基に,補償金制度に関する議論をひとまず収拾するための暫定的な結論を模索する。

 こうした状況のなかで,著作権関連89団体は2008年4月4日に記者会見を開催し,補償金制度の見直しに関する今後の議論についての意見を表明した。会見では権利者団体の関係者が,小委員会の2008年度の第1回会合におけるJEITAの関係者の発言について言及した。この会合では,JEITAの亀井氏が,「(小委員会でJEITAは)バランスの取れた解を求めつつ,真摯(しんし)に検討に臨みたい」と発言した。実演家著作隣接権センターの椎名和夫・運営委員はこの発言を受けて,「(JEITAの)大きな変化であり高く評価する」とした。

 これに対してJEITAの亀井氏は,「あの発言は補償金を認めるという趣旨のものではない」と反論する。「バランスとは(デジタル機器などの)利用者と権利者のバランスという意味で,これまでの主張を変えたつもりはない」という。また,ダビング10と補償金制度についても,「(ダビング10の導入は)地上デジタル放送を普及させるための政策に関する議論で出てきた話で,補償金制度とは関係がない」(JEITAの長谷川英一・常務理事)という従来の主張を変えていない。

 JEITAは,「(文化庁の)新案の内容を見たうえで,補償金制度に対するスタンスを変えるべきかを検討する」(亀井氏)方針だ。補償金制度の見直しについての暫定的な結論がダビング10の導入予定日までに出るかどうか,予断を許さない状況が続いている。