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ユーザーの言葉をうのみにしてはいけない

2008/04/25

 「お客様は神様だ」という言葉がある。「お客様は常に正しい」と思って仕事に取り組むことはとても大切なことだ。しかし,顧客にも,それぞれの立場があり,持っている情報量も様々に異なっている。ユーザーと接するときには,このことを常に念頭に置いておかなければならない。

 ITエンジニアは,担当者の意見や考えも気にしなければならないし,マネジメント層の意見や考えも重視する必要がある。ただし,彼らの意見や考えには,自分たちの立場に固執するあまり会社としてのゴールを見失ってしまっていることが少なくない。ITエンジニアは,その目指すべきゴールを見極める必要がある。

 私が日本IBMで営業をしていたころ,伊豆で地震が頻発して通信回線が分断してしまい,ある銀行の営業店のオンライン・システムが停止してしまったことがあった。銀行内で会議が開かれ,システム部門の人たちは大きな地震が来てもシステムが停止しないようにするにはどうしたらいいかを真剣に検討していた。

 私は「大地震がきてパニックになったら,銀行は必要ないでしょう。オンラインが稼働するよりも,社員が家族と連絡が取れたり,家族の所に駆けつけるほうが重要だし,近隣の人たちが困っていたら助けに行くほうが大事だ」という意見を言った。システム部門の人たちは怪訝そうな顔をしていたが,副頭取は「君の意見は正しい」と高く評価してくれた。

 また,銀行の営業店で混雑している顧客にどう対応するかという議論のときも同様だった。システム部門の人たちは「システムや仕事の手順を改善してお客様の待ち時間を短縮する」というテーマを真剣に検討していたが,私の意見は違っていた。「訪ねてきてくれたお客様にできるだけ早く帰ってもらいたいというのは銀行にとって間違った目標だ。できるだけ長居してもらって,営業に結びつける方が正しいはずだ。長い時間がかかっても長く感じないというのが最高のシステムだ」と力説したら,やはり経営層の人たちは賛同してくれた。

 現場のことにも精通し,現場の人たちとも信頼関係を築き,彼らの目標達成の手伝いをしなければならない。ただし,顧客から大きな信頼を得るためには「会社のゴール」の達成に貢献するようにしたいものだ。そのためには,顧客企業の経営陣にでも,勇気を持って否定的なアドバイスもしなければならない。

 顧客が間違った考えや判断をしているときに正してあげるのはそう簡単なことではない。逆にお客が意固地になってしまい,人間関係までそこねてしまうのはよくあることだ。あなたがアドバイスをしているうちに,顧客自身が自分の考えを修正できるようなアドバイスの方法を身に付けたい。あるいは,相手が素直に受け入れる人を通じてアドバイスすることも有効だ。

【顧客にアドバイスする行動習慣】

1.事例や技術動向をまめに紹介する
 情報が不足していたために,顧客が判断を間違ってしまうことはよくあることだ。他社の事例やIT技術動向などをまめに紹介することで,情報の漏れを防いでほしい。「言おうか言うまいか 迷ったら言う」という行動が,漏れを防ぐ最良の方法だ。

2.嫌われ役を買って出る
 顧客に嫌な話をしに行くのは誰でも避けたいと思っている。チームの中で,その役を率先して買って出ることは,最も高度なコミュニケーション・スキルを身につける絶好のチャンスになる。トラブル,スケジュールの遅れ,値上げ,人間関係のこじれなど,多くの場面がある。顧客の担当者レベルと対峙することから始めて,より上位のマネジメントにも話せるようにスキルアップしよう。

3.定期的に簡単なレポートを提出する
 顧客のマネジメントに,1枚の紙にまとめたレポートを定期 的に出す習慣を付けておけば,「漏れ」「過剰」「誤り」をタイムリーに是正できるようになる。日ごろの内容は単なる「報告・連絡・相談」でいい。それを続けることで,顧客の意見や考えを否定するようなアドバイスも,受け入れてくれるようになる。レポートの頻度は,週1回程度が望ましい。

池田 輝久(いけだ てるひさ)
エンパワー・ネットワーク プリンシパル
日本アイ・ビー・エム,日本タンデム・コンピューターズで営業として活躍した後,日本オラクル常務となり,パートナビジネスを担当。イーエムシージャパン副社長を経て,1999年11月11日にエンパワー・ネットワークを創業。ビジネス・スキルに関する教育を手がける。

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