ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
取締役・マネ―ジングディレクター
調達推進基盤 代表取締役社長
(1)はじめに
偽装請負や二重派遣という言葉を目にすることが増えてきました。これまでは、製造業や軽作業の現場を中心に摘発されてきた違法行為ですが、IT業界においても無視できない問題となりつつあります。監督官庁も今後IT業界に対して重点的に指導していくと明言(*1)しておりますし、法令違反企業は、実名報道だけにとどまらず、事業停止や担当者個人が懲役刑などの刑事処分に問われる事にまで発展してしまう可能性もある重大な問題なのです。
本シリーズでは、偽装請負状態をどのように是正していけばよいかについて、これまでのコンサルティング活動で培ってきた改善の方法をお話していきたいと思います。またこの是正を有効に利用した人事・購買戦略や営業面の事業強化についても言及したいと考えております。
(2)偽装請負とは?
はじめに、契約形態の説明をしたいと思います。会社によっては、請負や準委任を、法律と異なる言葉づかいをしていている場合がありますので、注意する必要があります。
(参考:各契約形態の説明)
請負契約 | 仕事を完成させることを約束し、その成果物に対して対価を得る契約形態になります。 |
準委任契約 | 法律行為以外の事務を行うことを受諾した者が自分の責任・管理のもとで、その事務の処理を行うことを約束する契約形態になります。 |
雇用契約 | 労務者が指揮・命令に従って仕事をすることを約束し、使用者がその労務について報酬(賃金)を支払うことを約束することによって成立する契約形態になります。 |
いわゆる偽装請負とは、契約書のタイトルは請負契約または準委任契約としておきながら、実質的には発注者(ユーザー企業)の指揮命令を受けて業務を行うことをいいます。
重要な点は、
・請負、準委任契約:発注者が指揮命令してはいけない。
・派遣契約:発注者が指揮命令しなくてはならない。
ということです。
IT業界では、IT技術者の慢性的な不足から、下請け企業(パートナー企業とされることが多い)となる中小規模のシステムインテグレーターやソフトハウスから、人材を調達することが多くあります。
下請け企業も自社の人材だけでは要望に応えられないケースが多いため、さらなる下請け企業から人材を確保しようとします。そうすることで、受発注構造がどんどん多重化してしまいます。なかには、5次請けなどの事例も見られます。
発注業務の範囲や成果物をきちんと決めて商取引を行えば、階層構造になっていても違法行為とは言えませんが、実態としては業務範囲を確定せずに、労働力の提供だけが目的とした契約(または実質的にそうなっている)になっていることが多いようです。
こうなってしまうと、職業安定法第44条に定める“労働者供給事業の禁止”や、労働者派遣法の“二重派遣の禁止”に抵触してしまう恐れがあります。上記の法令は、労働者の指揮命令系統があいまいになることで労働環境が悪化することや、中間搾取が行われて労働者に不利益が生じることを懸念して制定されたものです。
これに対応し、労働局も「請負の適正化のための自主点検表」を配布しております。
ここでは、いろいろな条件が記載されており、何を重点にして対応すればいいのか判断が難しいとの声をよく聞きますが、中心となる観点は“労働者供給事業ではない”ということと“仕事を完成させる”ということです。
つまり、対策としてよく行われる“委託先企業のスペースには間仕切りをする”といったことや、“社名の看板を作成する”ということは、上記の2点に関係してくるものなのです。しかし、こういった目に見えるわかりやすいところに意識が集中してしまうことは仕方がないのですが、形だけ合わせても、本質的なところが対応できていなければ意味がないことになってしまいます。
偽装請負の実例: <事例>首都圏 請負・派遣適正化キャンペーン」実施結果
(*1)明言
2006年度以降実施の請負・派遣適正化キャンペーンで、対象業界として情報サービス産業(IT業界)が明記されました。
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