米メディア企業の行動原理を一言で表すと「ビジネス・セントリック」である。コンテンツを商品として,最大利益を追求する。力の強いメディア企業やコンテンツ企業は,放送媒体,紙媒体,コンテンツ制作や音楽まで包含した巨大な企業体「メディア・コングロマリット」を形成してきた。これは,テレビ,新聞,ラジオ,雑誌の4大メディアにインターネットが加わった後も変わらない。大手メディア企業は,当然の選択肢としてWebメディアにも食指を動かす。
2008 Media Summit New Yorkでも,こうした旧来型メディア企業のWebへの進出が話題になった。基調講演では,米CBSのレスリー・ムーンベス社長兼CEO,米ディズニーのロバート・アイガーCEOとメディア・コングロマリットの両巨頭が登壇。Webへの進出について現状と戦略を語った(写真)。
写真●二日目の基調講演に登場した米CBSのレスリー・ムーンベス社長兼CEO |
両者に共通する動きとして,SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)事業者の買収がある。CBSは2007年5月に英国の音楽系SNS「Last.fm」を買収。ディズニーは,2007年8月に子供向けSNSの「Club Penguin」を買収した。
「音楽そのものよりも,音楽につられて集まるコミュニティが大事なんだ(community around music)」――。Last.fmを買収した狙いについて,Media Summitの基調講演でCBSのムーンベス社長兼CEOはこう語った。
コミュニティ内では,同じ趣味を持つ人同士が友達になり,友達同士でレコメンド(推薦)が頻繁に行われる。例えば,東京のバンドをベルリンの友達に紹介するといった国をまたいだ口コミも起こる。また,新人バンド・コンテストを実施するなど,コミュニティが新たな音楽コンテンツ発掘の場所になっているとした。
一方,ディズニーのアイガーCEOは,「SNSはティーン世代だけのものではない。子供にとってコンピュータはオモチャであり,Club Penguinはその世代への先行投資だ」とClub Penguin買収の狙いを説明した。Club Penguinは6~8歳の子供だけを対象にしたチャットなどを用意し,子供が安心して楽しく遊べるように工夫している。
ディズニーは,アニメなどの子供向けコンテンツに強みをもっており,その分野でのブランド力も極めて強い。ユーザーとなる子供が自社コンテンツに親しむ機会は,できるだけ多い方がいい。今後,コンピュータはますます子供にとって身近になり,テレビのような存在になっていく可能性は高い。ディズニーは小さいうちからディズニーキャラクターに親しんでもらうチャンスを増やす機会として,SNSを活用する考えだ。
SNSが形作るコミュニティは良質のメディアになる
メディア・コングロマリットのSNS進出が進む背景には,SNSがコンテンツを広める「メディア」になっていることがある。米メディア業界のなかには,SNSを「SNM」(ソーシャル・ネットワーキング・メディア)と呼ぶ人もいるほどだ。
実際,音楽や映像コンテンツのなかには,SNSで話題になったことがヒットに結び付いたものも増えている。SNSのコンテンツというと,ユーザーの書いた文章やユーザー自作の音楽といったCGM(consumer generated media)コンテンツを思い浮かべがち。しかしここ最近は,SNS上で商用コンテンツを提供する例も増えている。
SNSのインタラクティブ性と配信コストの低さは,コンテンツ事業者から著名コンテンツを集める武器になる。例えばMy Spaceでは,米ソニー・ピクチャーズがSNS上で動画配信「Minisode Network」を運営している。このサービスでは,ソニー・ピクチャーズが自社のライブラリから「チャーリーズ・エンジェル」,「スタスキー&ハッチ」など往年のドラマを1回3分程度の短尺に編集して配信している。
一部の大手SNSは,自主コンテンツをヒットさせるまでに成長している。例えば英国で最も人気のあるSNSであるbeboでは,2007年に「Kate Modern」というドラマが大ヒットを記録した。このドラマは1回約2分と短尺のコンテンツで,全150回が配信されて全体で2000万回以上視聴された。ティーン世代をターゲットとする広告主の獲得が好調で,レコード会社のワーナーやトイレタリー製品のP&Gなどがスポンサーに付いた。これによりbeboは,「Kate Modern」の続編となる新作「Gap Year」などを制作・配信できるようになった。
メディア・コングロマリットにとって,新たなコンテンツ・ウインドウ(コンテンツを流通させるメディア)の獲得は,将来の収益増に直結する。例えば映画会社である米ディズニーは,放送局の米ABC買収,ビデオやDVDへの対応を通じて,コンテンツ・ウインドウの拡大は会社のDNAになっている。こうした延長線上に,新たなメディアとしてのSNS買収があったわけだ。
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なお,ディズニーはAOL,CBSはFacebookとWeather Channelの買収が噂されているが,2008 Media Summit New Yorkのカンファレンスでは,両社ともにその可能性を否定していた。
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