NTTグループの上位レイヤー統合推進の一環で映像配信サービスが1ブランドに集約された。NGN(次世代ネットワーク)の商用化のタイミングに合わせて「ひかりTV」と名称を変え,IPTVサービスとしては前例のない70チャンネル以上の放送を提供する。地上デジタル放送の再送信も準備が整えば提供範囲を広げる方針だ。

 NTTぷららは3月31日に,NTT東西のFTTH(fiber to the home)ユーザーを対象としたテレビ向け映像配信サービス「ひかりTV」の提供を始めた。これまでNTTコミュニケーションズ(NTTコム)傘下で,別々の運営主体が提供してきた三つの映像配信サービス,「4th MEDIA」「OCNシアター」「オンデマンドTV」を統合し,新サービスとして立ち上げた。

FTTH加入拡大の切り札として期待

写真1●ひかりTVのロゴマークを発表するNTTぷららの板東浩二社長
写真1●ひかりTVのロゴマークを発表するNTTぷららの板東浩二社長
テレビ画面の四角形と光ファイバーを表す星型を組み合わせた。写真円内は,新しく作成したサルのキャラクター。

 ひかりTVという名称は,FTTHサービスの需要を一気に広げたNTT東西の「ひかり電話」を意識して付けた。「FTTHサービスとセットで,電話もテレビも同時に加入してもらえるように,名前にも統一感を出した」(NTTぷららの板東浩二社長)という(写真1)。ひかり電話をトリガーとしたFTTHサービスへの新規需要が一巡したと言われる中,NGNの開始に合わせてひかりTVを投入し,FTTHの新規加入ペースを再び引き上げようという狙いだ。

 ひかりTVは,NTT東西が提供を始めたNGNサービス「フレッツ光ネクスト」のユーザーだけでなく,既存の「Bフレッツ」や「フレッツ・光プレミアム」のユーザーも契約できる。NTT東西がレンタルするひかりTV専用チューナーを導入すれば,映画やサッカーなどのVOD(ビデオ・オン・デマンド)コンテンツや,一部の放送サービスをHDTV(ハイビジョン)画質で楽しめる。

 地上デジタル放送の再送信以外はBフレッツのユーザーも対象になるため,NGN独自の帯域保証機能を使わない。H.264形式の映像を7M~8Mビット/秒前後まで圧縮することで,HDTVサービスを実現する。

 NTTぷららは2008年度中に,23万件の新規ユーザーを獲得し,3サービスからの移行と合わせて累計約48万ユーザーとする計画だ。NTTぷららの板東社長は「2010年度末までに,累計110万ユーザーを達成し,黒字転換する」と展望を示した。

放送は75チャンネル,VODは1万本

写真2●ひかりTVの利用画面
写真2●ひかりTVの利用画面
右側にビデオや放送などのサービスの選択ボタン,左側におすすめの番組情報などをロールアップで表示する。
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 ひかりTVのサービス内容は大きく2種類,NTTぷららが運営するVODサービスと,有線役務利用放送事業者の「アイキャスト」が提供する放送サービスで構成する(写真2,表1)。この二つの組み合わせで,VODを主に利用する「ビデオざんまい」,放送型サービスを主に利用する「テレビおすすめ」,両方とも利用する「お値うち」の3種類の契約プランから選ぶ。


表1●ひかりTVのサービス概要
NTT東西のFTTHサービスのユーザーを対象に提供する。NGNを使う「フレッツ光ネクスト」に加入しなくても,ひかりTV用の新しいSTBを導入すれば,HD(ハイビジョン)画質の放送やVODを楽しめる。地上デジタル放送の再送信サービスは,フレッツ光ネクストに加入し,ひかりTV専用チューナーを導入したユーザーに限定して提供する予定。
サービスプラン名 お値うちプラン テレビおすすめプラン ビデオざんまいプラン
月額料金 3675円 2625円 2625円
サービス内容 VOD(ビデオ・オン・デマンド)サービス 見放題対象ビデオ作品(約5000タイトル) ──
オプションVOD 作品ごとに課金,1作品月額105円~
プレミアムVOD ジャンル別のシリーズ作品など,月額525円~
IP放送サービス 基本放送サービス(自主放送など12チャンネル+地上デジタル放送)*1 ──
ベーシックチャンネル(40チャンネル) ──
プレミアムチャンネル(23チャンネル) 1ch月額315円から追加可能
*1 記事執筆時点では,放送局と再送信同意について交渉中である

 契約プランに関係なく視聴できる「基本放送」も提供する。NTTぷららが制作したハイビジョン番組を放送する「ひかりTVスタイル」のほか,通信販売専門チャンネルや外国語放送など12チャンネルが含まれている。

 ひかりTVは,既存の3サービスよりも,提供する映像コンテンツが充実した。放送型サービスでは,チャンネル単位で視聴契約が必要な「プレミアムチャンネル」も含めて,総計75チャンネルをそろえた。既存サービスよりも10チャンネル以上増えている。開始当初から,ひかりTVスタイルのほか,「ショップチャンネル」,「ディスカバリーHD」をHDTV画質で放送する。

 VODコンテンツは,従来よりも約2000タイトルを増やし,総計約1万タイトルとした。このうち,約1000タイトルがHDTVである。

再送信は当初,首都圏と大阪だけ

 フレッツ光ネクストに加入するユーザーには,地上デジタル放送の再送信サービスも基本放送に含めて無償で提供する。当初に再送信するチャンネルは,首都圏と大阪をそれぞれ放送エリアとする合計7チャンネルずつとなる予定である。

 実はこのサービスは,関東と近畿の広域放送圏以外の地域では視聴できない。放送局各社はアイキャストに対し,放送波が届く県域を超えて再送信サービスを提供しないことを条件に再送信同意しているからだ。

 今後,フレッツ光ネクストの提供エリアが各県の県庁所在地などに広がれば,アイキャストもその地方の放送局と別途,再送信同意を結ばなくてはならない。アイキャストは「フレッツ光ネクストのエリア拡大と同時にすべての地域で再送信サービスを提供するのは難しいが,できるだけ早期に各地域の電波と同じチャンネル数をそろえられるように努力したい」としている。

NGNのエリア拡大を要請も

 IP方式の同時再送信サービスは,総務省が2011年7月の地上波放送の完全デジタル化のために,補完手段として認めた経緯がある。都市部のビル陰や山間部など放送波を受信しにくい地域では,IP網経由で放送を受信できるようにして,デジタル移行を確実なものにしたい考えだ。

 NTTぷららはこの背景を尊重し,今後難視聴対策としてもひかりTVを利用できるようにする計画だ。具体的には,月額1000円程度で基本放送だけを提供する新プランを検討している。

 しかし放送波が届かない地域では,NTT東西のNGNサービスも提供されていない場合が多い。このため「一定のニーズがまとまれば,NTT東西に光回線の提供エリア拡大を申し入れていく」(NTTぷらら)。BSデジタル放送についても,2008年内の再送信実現に向けて技術条件の検討を始めている。これらが実現すれば,CATV放送のサービス内容にほぼ追い付ける。「FTTHサービスの加入を促進する上でも重要になる」(同)ととらえている。

STBはファームアップで移行可能

 NTTぷららは,これまで既存の映像配信サービスを利用していた約25万ユーザーにも順次,ひかりTVへの移行を促していく。移行を申し込んだユーザーのSTB(セットトップ・ボックス)のファームウエアをネットワーク経由でアップデートして,ひかりTVに移行させる計画だ。オンデマンドTVのHD非対応機以外は交換なしで移行できる。ただし,既存サービスのHD対応機以外はHDTV映像は視聴できないという制限もある。既存の3サービスは6月末にサービスを終了する予定である。