仮想化環境には,通常よりも高い可用性が求められる。しかし,仮想化環境の可用性を高めるための技術は,まだ発展途上だ。障害発生時に待機系へ瞬時に処理を引き継げる“ホットスタンバイ機能”に対して,早期実現を求める声が強い。

 複数台のサーバーを1台に集約するということは、万が一ハード(実マシン)に障害が起こると被害が一気に拡大することを意味する。各仮想マシンを制御する仮想化ソフトがダウンしても状況は同じだ。仮想化ソフトを使うシステムでは信頼性の確保に通常以上に気を配る必要がある(図1)。

図1●仮想化ソフトを利用した場合の信頼性確保の方法
図1●仮想化ソフトを利用した場合の信頼性確保の方法

 最もよく使われるVMwareに限って話を進めると、仮想化ソフトそのものの信頼性は一定の水準に達しているようだ。先行企業やインテグレータ各社は「VMwareが原因でシステムが停止した経験はほとんどない」と口をそろえる。

 さらにVMwareの上位版はクラスタリング・ソフト「VMware HA」を標準で備える。実マシンまたは仮想マシンの障害を検知し、待機系の実マシンに処理を自動的に引き継ぐ。要はハード障害への対策機能が標準装備されているようなものだ。

 ただしVMware HAはシステムの停止時間を極力短くしたいミッション・クリティカル用にはまだ適さない。障害発生を検知してから仮想マシンを生成し、OSやアプリケーションを起動しなおすコールドスタンバイ方式だからだ。宇部興産の検証では「障害発生から業務再開まで約5分かかった」(宇部情報システムの山口主任)という。

 通常のサーバーではミッション・クリティカル用に、待機系も稼働させたままのホットスタンバイ方式のクラスタリング・ソフトが実用化されている。Oracle RACなどがそれで、複数のサーバーが同期を取りながら同じ処理を実行し、障害時には待機系が瞬時に処理を引き継ぐ。

 仮想化ソフトをミッション・クリティカル用に安心して使えるのはもう少し先になる。ヴイエムウェアはホットスタンバイ方式のクラスタリング・ソフトの開発を進めており、近いうちにベータ版の提供を始める予定だ。

 VMware HAにはもう1つ限界がある。仮想マシン上で動くOSやミドルウエア、アプリケーション・ソフトの障害までは面倒をみてくれないことだ。ある仮想マシンで動くアプリケーションの障害を検知して別の仮想マシンに処理を引き継ぐには、NECの「CLUSTERPRO」やサイオステクノロジーの「LifeKeeper」といったVM- wareを正式サポートするクラスタリング・ソフトを別途購入しなければならない。VMware HAと管理・設定作業を2重に実施するのは少し面倒だろう。

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 いくつか課題は残るものの、仮想化ソフトが今後のメインストリームであることは間違いない。システム構築の基盤がOSから仮想化ソフトへ移るのはそう遠い話ではない。ユーザー企業には現時点での実力と限界を見極めつつ、導入のタイミングを計る選球眼が求められる。

競争激化する仮想化ソフト市場
MSやオラクルがヴイエムウェアを追撃

 今年は仮想化ソフトを提供するベンダー間の争いが一気にヒートアップする。米マイクロソフトと米オラクルというソフト界の巨人が、仮想化ソフト市場に相次ぎ本格参入を果たすからだ。昨年8月の株式公開後、一気に時価総額で世界第4位のソフト会社に躍り出た最大手ヴイエムウェアの追い落としに乗り出す(図A)。

図A●仮想化ソフト市場の動向
図A●仮想化ソフト市場の動向

 マイクロソフトは今夏、「Windows Server 2008」に新たな仮想化ソフト「Hyper-V」を搭載。利用のための費用を数千円に抑え、利用者を広げる作戦だ。

 後発のマイクロソフトは、普及に向けて他社とも共同戦線を張る。今年1月には米シトリックス・システムズと提携を拡大した。シトリックスが提供する「Xen」ベースの仮想化ソフトとHyper-Vの互換性を確保するほか、運用管理ソフトの相互利用も可能にする。

 オラクルが昨年秋から米国で提供中の仮想化ソフト「Oracle VM」も今年半ば以降、日本上陸を果たす見通しだ。日本オラクルが日本で正式にサポートを始める。

 Oracle VMはオープンソースの「Xen」に基づく仮想化ソフト。オラクルはソフトを無償で提供し、有償サポートで儲けるビジネスモデルを採る。

 オラクルは自社製ソフトの動作環境としてOracle VM以外は正式サポートしない方針。市場の過半を握るデータベース・ソフトをけん引役にシェア拡大を図る。

 マイクロソフトやオラクルの攻勢に対し、追われる立場のヴイエムウェアは今のところ余裕の構え。ライブマイグレーションや負荷自動分散、運用管理などの機能面で「競合他社を大きくリードしている」(米国本社のダイアン・グリーン社長兼最高経営責任者)と自負しているからだ。

 低価格路線と高付加価値路線のどちらがユーザーの支持を集めるか。しばらく目が離せない。