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エノテック・コンサルティングCEO 米AZCAマネージング・ディレクタ 海部 美知 |
米国では,700MHz帯周波数の競売が開かれている。世間では,この競売の話題はすっかり米グーグルに集まってしまった。その陰で,700MHz帯を舞台に,次世代無線ブロードバンド方式の勢力争いが静かに進行している。
700MHz帯は,上り下りの周波数が対になった全2重方式(FDD)に割り当てられた携帯電話向けの帯域だ。ここで使われる無線方式としては,現行のHSDPAよりも高速な「LTE」(long term evolution)が有力視されている。
一方,日本で最近周波数が割り当てられたモバイルWiMAXは,米国でも2.5GHz帯の利用が想定されている。この帯域は,同じ周波数で上り下りを交互に行う半2重方式(TDD)の採用が前提で,米スプリント・ネクステルが最大数の免許を保有する。
LTEはGSMやW-CDMAといった携帯電話方式の後継,モバイルWiMAXは無線LANの拡張──という位置付けで,実用時期はWiMAXの方が早いが,両者は微妙な競合関係にある。
モバイルWiMAX陣営の苦戦
米国では多数の事業者が,人口が少ない地域を中心に「固定WiMAX」のサービスを既に始めているが,モバイルWiMAXはスプリントが最初のケースとなる。
しかし,スプリントはこのところ経営不振が続き,50億ドルとも言われるモバイルWiMAXへの投資が重荷となっている。2007年には固定WiMAX事業者の最大手である米クリアワイヤとの合弁の予定をいったん解消。モバイルWiMAXの行方がますます不透明になった。
最近,この交渉が再開されたといううわさが報道された。WiMAXを推進する米インテルが,20億ドルをこの合弁に出資するという(執筆時点ではまだ正式発表はない)。モバイルWiMAXの採用を表明している主要通信事業者は,今のところ全世界でもKDDIとスプリントだけ。インテルが必死にスプリントをつなぎとめようとしても不思議はない。
ベライゾンの採用で勢い付くLTE陣営
一方,cdma2000陣営のリーダー格の米ベライゾン・ワイヤレスは次世代方式として,cdma2000の後継であるUMB(ultra mobile broadband)ではなく,LTEを採用すると2007年11月に発表した。
ベライゾンは,これまでcdma2000の特徴を生かして優位に立ってきた。しかし,ここへ来て,大株主であるボーダフォン・グループとの関係や,長期的な端末コストの傾向を考慮し,LTE陣営に歩み寄った。
全米2位の携帯電話事業者ベライゾンが採用を決めたことで,流れは一気にLTEに傾いた。700MHzでも,実際の採用技術が決まるのはまだ先だが,LTEが有力視されているのは,こうした背景がある。
LTEとモバイルWiMAXは,周波数こそ異なるが,同じ無線ブロードバンド・ユーザーを取り合う関係にある。日本でも,この行方を注目しておかないと,また「ガラパゴス」と揶揄(やゆ)されることになりかねない。
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