1960 年生まれ,独身フリー・プログラマの生態とは? 日経ソフトウエアの人気連載「フリー・プログラマの華麗な生活」からより抜きの記事をお送りします。2001年上旬の連載開始当初から,2007年に至るまでの生活を振り返って,週2回のペースで公開していく予定です。プログラミングに興味がある人もない人も,フリー・プログラマを目指している人もそうでない人も,“華麗”とはほど遠い,フリー・プログラマの生活をちょっと覗いてみませんか。

 2001年の2月初めごろだっただろうか。いつものようにポストの 中を見たとたん,頭の中が真っ白になった。そこには,税務署から決 算と確定申告の届出用紙が届いていたのだ。

 ご存知のように,給料から強制的に(!)税金を徴収される仕組み の勤め人と違って,個人事業主は「自分はこれこれの収入と支出があ りましたので,これだけ納税します」と申告しなければならない。申 告のしめ切りは3 月15 日。申告を遅れると「脱税者」のレッテルを 貼られてしまうかもしれない。

 だが,部屋の中には,「さあ帳簿を付けるぞ!」とばかりに1 年前 に買い込んだまま積んである経理や簿記の本,ちょっと入力してはサ ボりつづけたExcel,そして極めつけに3 日間で挫折した「勘定奉行 2000」(超有名な会計ソフト)が,ただあるばかり。そういえば,子 供のころから小遣い帳が1 カ月続いたためしがない私だった…。

社長も「おっさん」も税金は払わないと

 「ご職業は?」と尋ねられると,「フリー・プログラマです」と言わ ず,「自営業です」と答えることが多い。特に理由はないので,面倒な だけかもしれない。すると「社長さんですか?」と聞かれることがあ る。だが,私の場合は法人(会社) を設立したわけではないので社長 さんではない。魚屋さんとか八百屋さんといった,個人商店の「おっ さん」と同じである。

 社長さんであれ,おっさんであれ,税金を納めなければならないこ とに変わりはない。私のような個人事業主が納税額を申告する方法に は二つある。「白色申告」と「青色申告」だ。青色のほうが有利なの だが,帳簿を付けなくてはならない。帳簿の付け方には3 種類ぐらい あって,きちんとしたものを作れば,それなりの特典(控除) があるら しい。ここはやはり,最大の特典が得られる複式簿記で,と思って税 務署に届けを出したのは2000 年1 月末だった。

 意気込んで経理関係の本を買い込み,Excel に出納を書き込んでい った…,のは最初の数週間。本業が忙しいのにかまけて何もしないう ちに,未処理の伝票や領収書がたまる→めんどくさいので先送りする →未処理の伝票がますますたまる,というサイクルがあっという間に 出来上がった。

 そうこうしているうちに季節は巡り,7 月になった。個人の場合, 決算は12 月末で,3 月15 日までに申告しなくてはならない。1 年の 半分が過ぎようとしているのに,伝票と領収書はほったらかし,Excel 出納帳の最終更新日は2 月のままだ。

 これではいけない。そう思って「勘定奉行2000」を購入した。会 計ソフトなんて,ちょっと複雑な小遣い帳,ぐらいに考えていたのだ が,どうやら認識が甘かった。3 ~ 4 日間勘定奉行と格闘したあげく 断念。仕方なく6 月の出納をExcel にまとめて,池袋の駅前にオフィ スを構える会計事務所に相談に行った。税理士が言うには「これだけ 整理してあれば,来年1 月になってからでも間に合います。あとはこ ちらで全部処理します」。私が安心しきったのは言うまでもない。 再びまたたく間に時は流れて,気が付けば2 月の初旬。昨年の7 月 から何もしていない私に,それは突然やってきた。そう,税務署から 決算と確定申告の届出用紙だ。しかし,そのときの私にはまだ気持ち に余裕があった。

 本格的にやばい!と気づいたとき,カレンダーは既に3 月。今度は 「会計王2」を購入(悪あがきだね)。やっぱりわからない。知人のつ てを頼って,経理ができる人にアルバイトしてもらおうと考えたが,こ れもダメ。3 月末決算で,みなさん自分の仕事で徹夜続き。とてもお 願いできる状況ではない。「インターネットのSOHO 支援サイトで探 してみてはどうですか?」と,知人のアドバイス。そうだ。その手が あった。小回りがききそうなところを探して,惨状を書いてメールを 送った。

 税理士から電話があったのは翌日の昼過ぎ,3 月10 日のことだっ た。「よろしければ,こちらで引き受けさせていただきたいのですが」 と先方。「え?間に合うんですか?」「多分大丈夫ですよ」。さすがは プロ。さっそく翌日に会うことになった。紙袋には手当たり次第に詰 め込んだ領収書と伝票の束。親にも見せたことのない預金通帳だ。初 対面の人に見せるのは,かなり抵抗があったが,そんなことを言える 状況ではなかった。特急料金は5 万円だが,背に腹は代えられない。

フリー・プログラマは素敵な肩書き?

 「無事申告が済みました」というメールが届いたのは3 月15 日の 明け方のこと。税理士は,4 月半ばに領収書と帳簿をきれいにファイ リングして手渡してくれた。この程度の内容であれば,決算処理だけ を年に1 回依頼すれば十分だと言われたが,やはり不安なので顧問契 約をすることに。月々の費用は2 万円ほどかかるが,その時々の状況 に応じてアドバイスがもらえるらしい。今回の決算を見る限りは有限 会社にした方がよさそうだということだが,そのことは追々考えよう。 とりあえずは,初決算を無事終えられてひと安心だ。

 もしかするとこの連載が終わるころには「フリー・プログラマ」で はなく「社長」になっているかもしれない。私としては,いつまでも 「大工のおっさん」みたいな肩書きのままでいたいのだが,さてどうな ることやら?