「被災後の情報をリアルタイムに反映させてGIS(地理情報システム)を活用した事例は、国内では初めて」(京都大生存基盤科学研究ユニット助教の浦川豪氏)──。新潟県中越沖地震発生から2日後の2007年7月18日、産官学による「新潟県中越沖地震災害対応支援GISチーム地図作成班(EMC)」が結成された。

 京都大学など4大学と、地元GIS企業6社を中心に活動する「にいがたGIS協議会」がボランティアによる協力体制を敷き、人、地図データ、機材などを提供した。にいがたGIS協議会の会員各社の社員を中心に、常時10人程度のスタッフが入れ替わりEMCに詰め、2週間で200種類以上の地図を作成した。

 EMCでは災害対策本部会議のための地図、本部班の災害対応業務を支援するための地図、原課の業務を支援するための地図、関係機関の災害対応業務を支援するための地図を作成した。例えば、給水復旧の最新状況をGISに入力してプロッターで大判の紙に出力し災対本部会議の場での情報共有に役立てる、警察の管区別に駐在所・交番と仮設住宅の位置関係を示した地図を作成し、警官のパトロールで活用するなど、GISの地図情報はプリントアウトして使われることが多かった。「情報を付加していない地形図や住宅地図を打ち出したものへのニーズも意外と多かった」(新潟県総務管理部の松下邦彦情報企画監)という。

小見出しポイントは組織・体制作り

 「一番重要だったのは、地図作成依頼を受けてEMCが地図を作成する流れ(下図)を作ることだった」と浦川助教は振り返る。

図のタイトル
図●GISを活用した地図作成、共有、発信までのプロセス
地図作成を担当したEMCは、被災翌朝(7月17日)の災害対策本部会議における泉田裕彦新潟県知事の要請を受け、京都大学の林春男教授の指示の下に結成された。

 EMC内部では、全体を一元管理する「指揮者」、県職員からニーズを聞き出しながら地図の内容を詰める「受付相談者」、実際の「地図作製者」の3つに役割分担を集約したことでスムーズに業務が流れた。また、県庁舎内の災対本部の脇の部屋にEMCを置くことで、関係者のコミュニケーションが取りやすい環境を作り上げた。

 被災時にGISをどう活用していくのか。そのための組織をどう立ち上げ、どう運用していくのか。自治体ごとに細部の事情は異なるにせよ、EMCの活動の記録は、今後の自治体の災害対策に生きてくるだろう。