地上デジタルテレビ放送のモバイル機器向けサービス「ワンセグ」は,2006年4月1日に東京・名古屋・大阪を中心にスタートし,同年12月には全国の主要都市で視聴可能となった。開始当初は,ケータイによるテレビ視聴に関して,画面の小ささ,バッテリー寿命などの理由から,急速な普及に対して大きな期待は寄せられていなかった。しかし,サービス開始から2年が経過した現在,各携帯電話事業者が発売するケータイの多くの機種にワンセグ機能が搭載されるほどになった。ケータイによるテレビ視聴は一般化しつつあるといえる。

 また,2011年7月の地上アナログ放送停波後に空くVHF帯の有効利用に向けて,様々なモバイル・マルチメディア放送の動きが活発になってきている。

 そこで,今回あらためて,ワンセグ・サービスを含むモバイル・マルチメディア放送の現状の動向を整理してみる。

ワンセグ・ケータイの総出荷台数が2500万台を突破

 ワンセグ・サービスを受信できる携帯電話の累計出荷台数は,2008年4月10日の電子情報技術産業協会(JEITA)の発表によると,2008年2月には294万8000台が出荷され,同月末の累計出荷台数は約2587万台と,すでに2500万台を超えた(JEITA,移動電話国内出荷統計(2008年2月分))。サービス開始から1年4カ月後の2007年7月に累計1000万台を突破し,その後のワンセグ・ケータイの機種増加に伴い,5カ月後の12月末に2000万台を突破,さらに2カ月で500万台を積み増す急加速ぶりである(図1)。

図1●ワンセグ対応携帯電話出荷台数
図1●ワンセグ対応携帯電話出荷台数
出典:電子情報技術産業協会(JEITA),2007年度移動電話国内出荷実績(2008年2月分),2008年4月10日発表
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 2008年春モデルの各社ラインアップを見ると,NTTドコモは905iシリーズ10機種中8機種,705iシリーズ13機種中5機種がワンセグ機能を搭載。au(KDDI)は11機種中8機種,ソフトバンクモバイルは15機種中8機種がワンセグ機能を搭載している。このようにワンセグはほぼ標準搭載機能になりつつある。またJEITAのデータによれば,出荷台数中のワンセグ搭載率は,2007年11月が63.5%,12月が55.3%,2008年1月が62.6%,2月が61.5%であり,4カ月連続で6割前後を保っている。このことからもワンセグ搭載ケータイが今後ますます普及していくものと考えられる。

放送法の改正法案が成立,独自放送が可能となったワンセグ

 2007年12月28日,「放送法等の一部を改正する法律(平成19年法律第136号)」が公布された。2008年4月の改正放送法施行により,ワンセグ・サービスにおいて一般のテレビ向けと異なる番組の放送,つまりワンセグ独自番組の放送が可能となったのである。

 これを受けて,日本テレビ放送網(日本テレビ)では2008年度を「ワンセグ・トライアル期間」と位置づけ,4月1日から始まったプロ野球2008年シーズン「ワンセグ・プレミアムナイター」で,ワンセグ専用番組の放送(非サイマル放送)の提供を開始する(プレスリリース)。非サイマル放送は5月以降の10試合程度において関東ローカルのみで実施予定。CMなしの独自映像・音声の放送や最大21時24分までの延長放送を計画している。

 このようなワンセグ放送の独自放送は,新たな収益モデルとして期待されている。一方で,新たな番組制作などによるコストアップや,一般のテレビ向けに放送している番組と異なる番組を放送することが受け入れられるのかなどの懸念もあり,非常に不透明な状況にあることも事実である。

 放送局や調査会社が実施しているワンセグの利用実態調査結果からも分かるが,ワンセグの利用実態としては自室での視聴がかなり高い比率に上る。当初想定されていた朝夕の通勤時間帯や昼休み時間帯の暇つぶし利用だけでなく,夜に自室でゴールデンタイムやプライムタイムの番組を視聴する形態も多いという結果である。

 このような現在のワンセグの使い方から考察すると,ゴールデンタイムやプライムタイムは現状通り一般のテレビと同じ番組のサイマル放送を継続し,ワンセグ独自番組としては,スポーツ番組の延長放送や土日を含めた昼間や深夜の一部の時間帯での見逃し番組の再放送や独自ニュースの放送などが想定できる。しかし,これでは新たな収入源を期待しにくい。ワンセグの独自番組が“解禁”になったといって,その活用法は未知数というのが現状である。

ワンセグのデータ放送に広告を配置する試みも

 一方,テレビ番組ではなくデータ放送に着目すると,ワンセグで収益を上げるモデルとして,データ放送コンテンツに広告を置くことが考えられる。現在のワンセグはデータ放送部分にバナー広告を張れないルールがあるが,今後ケータイ向けのWebサイトと同様にバナー広告の掲載が可能になると,ターゲット広告といったネット広告モデルができ,販売促進につながる広告が期待できる。

 そこで,在京民放キー局と電通,博報堂DYメディアパートナーズは共同で,ワンセグデータ放送での広告表示実験を3月から開始した。この実験は,大きさが統一されたバナー広告を民放キー局各社のワンセグデータ放送で表示するというものである。現状ではバナー広告として表示される参加企業のサイトへのリンクは行われていない。しかし,今までワンセグのデータ放送領域に広告が掲載されなかったことを考えると,この実験はデータ放送活用の大きな一歩かもしれない(写真1,2)。

図のタイトル   図のタイトル
写真1●日本テレビの広告実験画面   写真2●テレビ東京の広告実験画面

 4月の改正放送法施行により,前述したとおり日本テレビではプロ野球の延長中継などを実施する。このほかにも,データ放送を使って音楽番組と連動した楽曲ファイル(着うたフルなど)の配信も可能となる。ワンセグの本放送開始前に各局が実験を行っていた技術あり,またデジタルラジオでは無料サービスとして既に試みられている。放送波を使った楽曲ダウンロードは,通信費が無料である点とデータ放送画面から簡単な操作でダウンロードできる点からユーザーの反応がよい。伝送帯域が狭い点が課題としてあるが,今後,本格的なサービスが行われる可能性は高いと考えられる。

 この他,以前から言われてきたサービスとしてVOD(ビデオ・オン・デマンド)連携がある。YouTubeを筆頭にケータイで動画を視聴するユーザーも増えてきていることや,今後モバイルWiMAXや無線LAN機能を搭載したハイブリッドケータイの登場も考えられるため,VOD連携サービスへの期待も高い。