2008年3月31日午後,参議院の総務委員会と本会議でNHKの2008年度予算案が承認されて成立した。総務委員会では,NHKが地上デジタル放送の普及にまい進することや,インターネット向けサービスや国際放送の充実についての付帯決議も行われた。今回は,NHKが新たに開始した,あるいは開始予定のオンラインメディアサービスについて考える。


 3月18日にNHKは,Webサイトの「NHKオンライン」をリニューアルした。自局のポータルサイトの「見やすさ」に,刷新の力点が置かれている。トップ画面は,縦に三つの帯で構成されている。中央には,お薦めの番組が大きく表示されるようになり,一覧性も向上した。「大河ドラマ」や「ハイビジョン特集」など編成に力を入れている番組については,「インターネットテレマップ」としてレイアウトされている。

 米YouTubeのように,簡易動画を再生できるのも特徴である。その下には,「NHK+IDサービス」のアイコンがある。受信料を支払っている世帯がパソコンでメールアドレスを登録すると,登録者だけに視聴者参加番組や各種の優待お知らせがメールニュースの形で配信されるものだ。転居時の住所やB-CASカードの登録などもでき,携帯電話機への配信サービスも受けられる。B-CASの登録は,左側の最下部にあるコーナーでも可能だ。

 全国49の放送局から発信されるニュースをピックアップしてまとめた左側の「ニュースゾーン」も見やすい。このようにNHKオンラインの刷新は,インターネットや携帯電話による双方向性を重視したものだ。2008年12月に始まる予定の「NHKオンデマンド」の番組更新などのお知らせも,利便性が向上するだろう。参議院の総務委員会でも,NHKが受信料の徴収で行っている訪問集金を2008年秋に廃止することで,どれだけ効率性が上がるかの質問が出た。今後オンラインサービスで顧客満足度を上げることが,受信料支払いの底上げになると期待されているようだ。


NHKオンデマンドの持つ可能性

 NHKの2008年度予算が成立した3月31日には,NTT東西地域会社が次世代ネットワーク(NGN)の商用サービス「フレッツ光ネクスト」を開始した。IPv6によって端末の制御が行われ,回線速度を保証された形での地上デジタル放送の再送信配信の開始も控えている。現時点でNGNに接続可能な世帯は東京と大阪の合計で約70万世帯だが,NHKがオンデマンドサービスを開始するころには,それ相当の接続可能世帯に達しているだろう。

 一方、ジュピターテレコム(JCOM)も,高速インターネットやVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービス「J:COMオンデマンド」を用意する。デジタルテレビ向け映像ポータルサイトの「アクトビラ」も,HDTV(ハイビジョン)画質のVODサービスを提供中である。NGNを利用した「ひかりTV」は,NTTぷららによって提供される。こうしたポータルサービス経由で提供されるNHKオンデマンドの番組タイトル数は,それぞれ1万を超えるもようだ。NHKは放送事業と会計を分離してオンデマンドサービスの充実に努めねばならないため,視聴者に支持される番組をいかに発掘・制作するかが普及の鍵になるだろう。


BBCが提供している「iPlayer」の見逃し番組視聴サービスの画面
写真1●BBCが提供している「iPlayer」の見逃し番組視聴サービスの画面
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 NHKとよく比較される英BBCは,英国内の視聴者などに向けたブロードバンド(高速大容量)配信サービス「iPlayer」で,1週間以内の見逃し番組を無料で視聴できるようにしている(写真1)。ただしパソコン上での自動更新や,メールニュースにある案内に従って,ブラウザーの自動更新などをする約款に同意する必要がある。日本でもKDDIの携帯電話機によるワンセグ(携帯端末向け地上デジタル放送)の視聴では,所有者情報こそ開示されないが,端末レベルで視聴時間や接触率の補足が可能とされているとの話もある。受信料徴収の効率化と視聴者のプライバシーの両立が,NHKのオンラインサービスでの議論にかかせないことはおわかりいただけよう。

 一方,BBCが米Appleの「iTunes Store」に提供しているドラマなどの有料視聴サービスと同じく,1000本あまりのアーカイブ番組の有料配信をNHKが選択したことで,見逃し視聴の扱い方が焦点となってくるだろう。地上波放送で放映直後の番組視聴は,まさに受信料をベースにした事業の延長にあるといえる。「その扱い方を総括原価モデルとどうバランスさせればよいのか」といった,もう一歩踏み込んだ議論をしてほしい。


佐藤 和俊(さとう かずとし)
茨城大学人文学部卒。シンクタンクや衛星放送会社,大手玩具メーカーを経て,放送アナリストとして独立。現在,投資銀行のアドバイザーや放送・通信事業者のコンサルティングを手がける。各種機材の使用体験レポートや評論執筆も多い。