2007年11月から約5カ月間にわたって検討してきた光ファイバの1分岐貸し。しかし,総務相の諮問機関である情報通信審議会は3月27日,NTT東西への義務化を見送ると答申した。代わりに同時検討していた光ファイバ接続料の値下げをNTT東西に要請することで,FTTH市場の競争促進を図るとした(図1)。

図1●総務相の諮問機関である情報通信審議会が出した結論
図1●総務相の諮問機関である情報通信審議会が出した結論
NTT東西に対する1分岐貸しの義務化は見送り,接続料の値下げでFTTH市場の競争促進を図る考えである。
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1分岐貸しは「必要不可欠とは言えない」

 光ファイバの1分岐貸しは,(1)NTT東西を含めた全事業者で設備を共用する方法(共用型)と,(2)各事業者が設備を専有する方法(専有型)の二つを検討していた。

 (1)の共用型は新サービスの提供やサービス品質に支障が出るとしてNTT東西が拒否していただけでなく,NTT東西と設備競争を展開する電力系事業者やCATV事業者も反対している。NTT東西に1分岐貸しを義務化することは「現時点では必要不可欠とまでは言えない」と判断した。

 対案として有力とみられていた(2)専有型も,NTT東西におけるシステム改修に費用と時間がかかるうえ,「適切な料金水準を合理的に設定することは容易ではない」として導入を見送った。前者は,物理的に一本の光信号主端末回線を1分岐ごとに論理的に分割して管理する必要があり,接続事業者ごとに接続料を算定・請求する仕組みを新たに追加しなければならない。

 一方,後者は総務省提案が有力とみられていたが,基本料を低くすると設備を効率的に利用するインセンティブが働かなくなるだけでなく,電力系事業者やCATV事業者の反発が高まる。逆に基本料を高くすると,当初の目的である接続料の低廉化を実現できなくなる。むしろ現段階では,光ファイバ接続料を値下げする方が「FTTH市場の競争を促進させるうえで直接的な効果を期待できる」とする総務省の政策的要請を尊重した。

 こういった議論を経て,1分岐貸しの導入を見送る結論に至った。情報通信審議会は1分岐貸しについて「今後,市場環境や分岐に関する技術の変化を確認したうえ,あらためて検討することが適当」とした。「あらためて検討する」とはしたものの,再検討のトリガーや時期は明記していない。「事実上のお蔵入り」(競争事業者)という声も出ている。

事後調整制度含みで接続料を値下げへ

 一方,光ファイバ接続料についてはNTT東西が1月に出した認可申請をいったん差し戻し,他事業者に貸し出すダーク・ファイバの需要予測を見直すことで,接続料水準を引き下げるよう要請した。その代わりに,NTT東西が光ファイバ接続料の改定と同時に要望していた「かい離額調整制度」を,「今回の接続料算定に限定した措置」として認める方針だ。予測と実績に差が生じてコスト割れになった場合も徴収漏れの分を,NTT東西がある程度回収できるようにする。

 具体的には費用予測と接続料収入の差分を,翌期と翌々期の2段階に分けて接続料原価に反映することを考えている。ただ,他事業者からは「経営上の不安定要因になる」として反対の意見が出ている。このため,接続料水準が急激に変動する恐れがある場合は,「NTT東西はかい離額をさらに複数の算定期間に分けて反映するといった緩和措置を講じるべき」とした。

 では,今回の措置で接続料はどの程度値下げになるのだろうか。NTT東西は1月の認可申請で,見直し対象となるダーク・ファイバの需要予測をBフレッツ/フレッツ・光プレミアムの心線数に対する割合で算出していた。割合は2006年度末実績をベースにしており,NTT東日本が約2割,NTT西日本は約1割である。

 そこで公開されている情報をもとに,この割合を増やした場合の値下げ幅を試算してみた。NTT東日本の割合を3割に増やした場合で303円程度,4割に増やした場合で575円程度のさらなる値下げを期待できる。ちなみに,これは光ファイバ分の値下げ幅だけで,実際にはもう少し安くなると思われる。

 ただ情報通信審議会は,需要予測の見直しに当たって「接続料の値下げで設備競争の進展に支障が出ないように留意すべき」と電力系事業者やCATV事業者への影響を配慮した。一部で「値下げ幅は100円程度」とする報道が出ているように,最終的には小幅な値下げで終わる可能性が高そうだ。総務省の狙い通りにFTTH市場の競争が活発に進むとは考えにくい。

NTT東西を除いた設備共用も期待できず

 競争が進むとすれば,NTT東西を除いた競争事業者同士で設備を共用して1分岐単位で利用できる仕組みを独自に構築した場合だろう。設備を共用すれば提供コストを軽減できるので,料金面でNTT東西のFTTHサービスに対抗する芽が出てくる。すでにソフトバンクやKDDIはNTT東西の実機を利用した実証実験を始めている。情報通信審議会は「まずは競争事業者同士で設備共用の取り組みを積極的に進めることが適当。NTT東西も実現に向けて協力すべき」とした。

 ただ,ソフトバンクやKDDI,イー・アクセスなどは以前からNTT東西を除いた設備共用に反対している。「ボトルネック事業者(NTT東西)と他事業者で競争環境が異なるのは不適当」,「NTT東西と共用するのとしないのとでは設備の稼働率が大きく変わってくる」といった理由からだ。本音では,設備共用の仕組みを構築・運用する手間をNTT東西に押し付ける狙いもあると思われる。今回の答申を受け,競争事業者が素直に設備共用に向けて動く可能性は低い。