シン・クライアントがもたらす効果は多いが,やはり使ってみて分かった“不都合な真実”もある。動画の対応,モバイルでの利用やプリンタへの印刷について,導入企業が経験した実例を紹介しよう。

動画に対応した端末も登場

 シン・クライアントが苦手なアプリケーションの代表は動画だ。サーバーとクライアントで画面の差分情報を送信する画面転送型,ブレードPC型,仮想PC型の3方式は,その仕組み上,なめらかな動画再生が苦手だ。

写真A●端末側でMPEG-2やFlashなどの動画を処理できる,NECのシン・クライアント端末「US110」
写真A●端末側でMPEG-2やFlashなどの動画を処理できる,NECのシン・クライアント端末「US110」

 このような課題を解消すべくNECは動画再生機能に対応したシン・クライアント端末「US100」や「US110」(写真A)を発売している。

 これらの端末では,動画の再生をサーバー側で処理するのではなく,シン・クライアント端末側で直接処理する。そのための専用のLSIを端末が内蔵している。最新版であるUS110では,MPEG-2やWindows Media Videoなどの動画コーデックに加えて,Web上での利用頻度が高いFlashにも対応している。

 「US110の機能を評価して,全社展開を検討したい」と語るのは,サイバーエージェント コーポレートIT室の粕谷昌男マネージャーだ。同社は2007年2月から仮想PC型のシン・クライアントを共通部門などに約70台導入しているが,全社導入は躊躇(ちゅうちょ)していた。「ネット広告を扱う業務のため,動画をなめらかに再生できる環境がないと全面導入は難しかった」からだと粕谷マネージャーは説明する。

「サイバーエージェント」動画対応を待って全社導入する

PHSだと操作性に難,3Gなら使える

 データ通信カードを使って外出先から画面転送型のシン・クライアントを利用しているオーエムシーカードは,当初はPHSをアクセス回線として利用していた。だが,すぐに第3世代携帯電話(3G)のデータ通信カードに乗り換えた。「画面の確認だけならPHSでも問題ないが,文字入力などの操作をすると,手元で入力してから画面に反映されるまでのタイムラグが発生し操作が不自然だった」(オーエムシーカードの中山部長)からだ。

 画面転送型のシン・クライアント・システムは,一般に64k~128kビット/秒程度の帯域しか使わないため,スペック的にはPHSによるデータ通信でも十分対応可能だ。しかし中山部長は「PHSだと操作の不自然さが解消できない。3Gの速度は欲しい」と語る。

印刷データの圧縮で帯域圧迫を防ぐ

 画面転送型,ブレードPC型,仮想PC型は,いずれもサーバー側で演算し画面情報だけを端末に送る。これらの方式はプリンタの印刷設定に注意が必要だ。サーバー側からそれぞれのオフィスに設置したプリンタに対して,大容量の印刷データを送信するため,WANやLANの帯域を圧迫する恐れがあるからだ。

 JTBグループは,会計システムをシン・クライアント化したため,各拠点で大量の帳票を印刷する必要があった。「WAN(の帯域)を圧迫しないように印刷データを圧縮する仕組みを取り入れた。さらにバッチ処理によって夜間にまとめて印刷データを送るようにしている」(JTB情報システムの伊藤執行役員)という。

 これまで苦手とされてきた分野の課題が解決されるごとに,シン・クライアントの利用シーンは広がるだろう。