1分岐貸しの議論と並行して光ファイバ接続料を改定する動きがある。現行の接続料は2007年度までが対象で,ちょうど改定の時期を迎えている。接続料が安くなればユーザー料金の値下げを期待できるだけに今後のFTTH市場に大きな影響を与える。

 だが,NTT東西が1月に認可申請した新しい接続料はわずかな値下げにとどまった。現行のNTT東西一律の月額5074円から,NTT東日本は361円値下げの月額4713円,NTT西日本は26円値下げの月額5048円だった。他事業者からは「数百円の値下げでは事業にほとんど影響ない。依然として高く,とても競争できるようなレベルではない」(ソフトバンクテレコムの弓削専務取締役)といった不満の声が上がっている。

接続料は予測の立て方次第で変動

 NTT東西が1月に申請した接続料は「将来原価方式」と呼ぶ方法で算定している。この方式では将来にわたって継続的な需要が期待できるという想定で,一定の期間に予想されるコストを平準化する。具体的には,2008~2010年度を対象とし,3年間の費用予測(設備コスト)を需要予測(稼働心線数)で割ることにより算出した図1)。

図1●将来原価方式による接続料の算出方法
図1●将来原価方式による接続料の算出方法
2008~2010年度を対象に3年間の費用予測を需要予測で割り,平準化したものが接続料になる。費用予測と需要予測に対し,ソフトバンクなどが反論している。
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 今回の改定に当たっては,光ファイバの耐用年数を現行の一律10年から,架空ケーブルは15年,地下ケーブルは21年に延ばしたことによる大幅な値下げを期待していた事業者が多かった。にもかかわらず値下げ幅が小さかった要因は,主に算定期間と需要予測にある。

 光ファイバの需要の伸びが今後も続くという前提に立つと,算定期間を長くするほど(接続料の算出方法の分母に当たる)稼働心線数が増えるため接続料が安くなる。もっとも,算定期間を長くすれば(接続料の算出方法の分子に当たる)設備コストも増える。ただ,すでに敷設した設備はまだ余裕があるため,需要増に比べて追加投資を抑えられる

 現行接続料が対象とする7年間は「当時としては低水準の月額5074円という接続料を導き出すために強引に適用した経緯がある」(業界関係者)としても,NTT東西は一気に3年間まで短くして申請した。「インフラ整備が2010年度で終わるわけではないので算定期間は5年間にすべき」(ソフトバンクテレコムの弓削専務取締役)という意見は多い。

コスト割れを避けたいNTT東西

 算定根拠とは別に問題となっていた点がある。NTT東西が「かい離額調整制度」の導入を要望したことだ。かい離額調整制度とは,予測と実績がかい離した場合に過不足分を翌期以降の接続料原価に反映する仕組みである。

 今回と同じ将来原価方式で2001年に算定した現行の接続料は,実績が当時の予測を大幅に上回っており,NTT東西のコスト割れとなっている(図2)。NTT東西は非公開としているが,累積赤字は相当な額に及ぶと思われる。こうした背景もあり,今後はかい離額調整制度を導入して設備コストを確実に回収したい意向だ。

図2●2001年に算定した際の接続料の予測と実績の比較
図2●2001年に算定した際の接続料の予測と実績の比較
将来7年間の費用と需要の予測に基づいて月額5074円という現行接続料を設定したが,コスト割れになっている。そのためNTT東西は,予測と実績がかい離した場合に翌期以降の接続料原価に反映する「かい離額調整制度」と呼ぶ仕組みの導入を要望している。
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 しかし,他事業者にとっては受け入れ難い制度である。仮に現行の接続料と同じように実績が予測を上回って大幅なコスト割れとなった場合,2011年度以降の接続料が値上げに転じる可能性がある。「経営上の不安定要因となり,事業計画の策定が困難になる。接続事業者に確認もせずに立てた需要予測で,予測が外れたからといって未回収分を追加徴収する仕組みの導入はあり得ない」(ソフトバンクテレコムの弓削専務取締役)という反論が出ている。

設備の先行投資分もかい離を助長

 では,現行の接続料はなぜ予測と実績が大幅にかい離してしまったのか。現行の接続料を決めたのはNTT東西がFTTHサービスを開始する前の2001年。「当時は予測しきれなかった」と言えばそれまでだが,複数の要因が複雑に絡んでいる(図3)。

図3●現行の接続料がコスト割れとなった理由
図3●現行の接続料がコスト割れとなった理由
他事業者への貸し出し分と専用線などの需要は予測しきれず,実績が大幅にかい離した。にもかかわらず,NTT東西は設備投資を続けており,費用予測が実績とかい離する要因を作っている。
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 まず需要については,Bフレッツ/フレッツ・光プレミアム利用分の実績と予測がほぼ同水準となっている。だが,他事業者への貸し出し分と専用線などの利用分は実績が予測を大幅に下回る結果となった。2006年度実績を見ると,他事業者への貸し出し分は予測の約5分の1,専用線などの利用分は予測の約4分の1である。このうち,専用線などの利用分は「INS1500の需要が含まれており,これが予想以上に使われなかったことが影響している」(NTT東日本 経営企画部の大平弘・営業企画部門長)。

 一方の費用は,2003年度から実績が予測を上回り,その差が年々拡大している。需要の実績は予測よりも下回っているので,通常であればこのように差が拡大することはないはずだ。NTT東日本はこの理由を「予測の精度が低かった」(大平部門長)と説明するが,将来需要を見越して先行投資した費用が多分に含まれている。総務省によると保守用を含めた心線の使用率は2006年度実績で約34%しかないという。

 このように他事業者に起因する要素や,設備の先行投資分の扱いなども影響している。接続委員会はこれらの点も踏まえて,かい離額調整制度の導入の是非を検討することにした。

導入前提で需要をかさ上げする方法も

 かい離額調整制度を導入すれば,NTT東西はコストを確実に回収できることになり,コスト割れの心配がなくなる。それならば前回の算定と同じように,需要を喚起する目的で接続料を大胆に下げる方向で予測を立てる方法もある。「政策として接続料を3000~4000円程度に下げれば,FTTH市場のさらなる拡大を図れるのではないか。現在のユーザー料金水準のままでは,光ファイバならではの魅力的なサービスが登場しない限り,需要が1000万程度で止まってしまうだろう」(イー・アクセスの庄司専務執行役員)との意見もある。