水害や地震,火災で損傷したハードディスク・ドライブ(HDD)からデータを復旧できるか検証した。水道水に沈めたHDDからデータが復旧できた割合は67%。水から引き上げた後に乾燥しないよう濡れたタオルでHDDをくるんでおくとデータの復旧率は向上した。

 水害,地震,火災──。災害は忘れた頃にやってくる。災害でダメージを受けたハードディスク・ドライブ(HDD)からデータを復旧できるのか。「水害」「地震」「火災」の3種類の災害を想定してHDDを損傷させ,そこからデータを復旧できるか検証した(図1)。

図1●「水害」「地震」「火災」で損傷したハードディスク・ドライブ(HDD)からデータが復旧できた割合
図1●「水害」「地震」「火災」で損傷したハードディスク・ドライブ(HDD)からデータが復旧できた割合
HDDに保存されている全データ容量を100%とした場合,水没後に乾燥したHDDからは約67%のデータが,落下したHDDからはすべてのデータが復旧できた。一方,200℃で30分間加熱したHDDからはデータが復旧できなかった
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 その結果,水に濡らした後に2日以上乾燥させたHDDからは,総ファイル容量の約67%を救出できた。100cmの高さから落下したHDDからはすべてのデータを復旧できた。200℃で30分間加熱したHDDからは,1バイトのデータも復旧できなかった。

 検証に利用したHDDは,米Seagate TechnologyのUltra ATA対応HDDの中古品で,容量は40Gバイト。これは3年ほど前のエントリ・サーバーに搭載されていたHDDと同等のスペックである。HDD内に画像(JPEGファイル)およびPDFファイルを計4475個(768Mバイト)保存して,復旧対象のデータとした。

 HDDは「プラッタ」「磁気ヘッド」「軸受け」「制御基盤」など複数の精密部品で構成されている(図2)。HDDが被災すると,これらの精密部品が損傷する。被災したHDDからデータを復旧するには,損傷した個所を特定し,交換/修理する作業が伴うため,一般的には復旧サービスを提供している専門会社に依頼することになる。

図2●実験で利用したハードディスクの内部構造
図2●実験で利用したハードディスクの内部構造
米Seagate TechnologyのUltra ATA対応HDD(容量は40Gバイト)。3年ほど前のエントリ・サーバーで採用されていたHDDと同等のスペックである

 復旧作業は,HDDが被ったダメージの大小により内容や工数が異なる。半日程度で済む場合もあれば,3カ月以上かかることもある。「破損がひどくても,時間を多くかけるほど復旧できる容量は増える」(検証作業を実施したアドバンスドテクノロジーの金田龍介氏)。今回の検証では,作業日数を最大3日間と定め,その期間内で復旧できるデータの割合を調べた。

 アドバンスドテクノロジーの場合,復旧にかかる料金は「HDDの損傷状態」と「復旧対象のファイル容量」により決まる。水道水に水没させた実験ではHDDの損傷が比較的小さかったため,復旧料金は12万7600円で済む。一方,食塩水に水没させた実験は,HDDの損傷が激しく複雑な作業工程が必要だったため,復旧料金は38万3000円となる。

 専門会社に復旧作業を依頼するにしても,被災現場でユーザーがやっておくべきことや,やってはいけないことはある。次回以降,検証から分かった「HDDにダメージを与えると何が壊れるのか?」「ファイルの復旧率や復旧にかかる期間はどうか?」「現場で注意すべき点は何か?」を災害別に解説する。

【テスターから】たいていの物理障害なら復旧できる
苦心したのは実験条件の設定

 データ復旧サービスをしている当社には,様々なHDDが持ち込まれます。比較的多いのが,ディスクアレイ装置の障害。RAID5構成を組んだディスクアレイは,1本のHDDが破損した時点で適切に交換しておけば障害を回避できるのですが,それに気づかず2本目も破損してしまうのです。そのほか下水道管が破裂して,汚水にまみれたHDDを復旧したこともあります。

 ここですべてを紹介することはできませんが,HDDの復旧にはノウハウがあります。当社のWebサイト(http://www.adte.jp/rec/)上で実績の一部を公開していますが,物理障害の復旧率は9割を超えています。

 それだけに,今回の実験条件の設定には苦心しました。HDDの損傷が軽微だと,すべてのデータを復旧できてしまいます。かといって損傷が激しすぎれば,所定の日数ではいずれのファイルも復旧できなくなってしまい実験にならないからです。

 HDDは実験のたびに壊れてしまいます。用意できるHDDの本数に限りがあるため,予備テストもできません。その割には分かりやすい結果が出ました。ぜひ参考にしてください。(アドバンスドテクノロジー 金田 龍介氏)