放送業界は、パソコンに外付けするタイプの地上/BS/CSデジタルチューナーの単体発売を解禁する方針を固めた。早ければ、2008年4月上旬に開催する放送業界関係者の会合で正式決定する。ビーエス・コンディショナルアクセスシステムズ(B-CAS社)によるB-CASカードの発行を経て、早ければ4月下旬~5月に、大手パソコン周辺機器メーカーなどから単体外付けチューナーが量産出荷される見通し。

 パソコン周辺機器メーカー各社は、PCIボードやUSB接続型など、複数の外付け地デジチューナーの出荷を準備しており、テレビ機能のない既存パソコンで、2万円前後の価格で地デジの視聴や録画、Blu-ray DiscやDVDへの書き出しなどが可能になる。

Friioの出現が「最後の一押し」に

 これまでパソコンで地デジを視聴するには、地デジチューナーを内蔵した、いわゆるテレビパソコン(地デジテレパソ)を購入するか、解像度の低いワンセグチューナーを利用するしかなかった。これは、外付け地デジチューナーによってテレビ番組のコンテンツ保護が解除され、無尽蔵に録画・複製されたり、インターネット上で流通したりといった事態を放送業界が懸念し、外付け地デジチューナーの単体販売を実質的に認めていなかったためである。

 状況が変化したキッカケは、地デジのコピー制御信号を無視して、無制限にテレビ番組を複製できる地デジチューナー「Friio」が2007年11月に発売されたことである。Friioの出現を機に、放送業界、メーカー側ともに、こうしたコピー制御信号を無視する機器の広がりを警戒する動きが強まった。

 現時点ではFriioの販売差し止め訴訟なども提起できておらず、今後テレビ番組を無制限にコピーできる機器がさらに出現することも懸念される。「放送業界公認の外付け地デジチューナーを解禁することで、一刻も早くFriioのような機器の影響力を薄めることが不可欠」(放送業界関係者)との見方から、外付け地デジチューナーを早期に解禁する方向で調整が進んだ。

 加えて、2011年7月24日のアナログ放送停波まで残り3年となり、地デジ対応機器の普及を加速させるためにはパソコンでの地デジ利用拡大が不可欠との見方で放送業界、メーカー側とも一致。家庭向けパソコンはここ数年ほど販売状況が低調だが、テレビ視聴という新たな用途の訴求により市場が活性化し、高性能なスペックの製品への移行を促進する効果も生まれそうだ。

 ガイドライン案に対しメーカーから修正要求が相次いだ場合や、4月上旬の会合で異論が出た場合にはスケジュールが延期になる可能性も残されている。だが、上述のような背景から、外付け地デジチューナーの解禁は時間の問題とみられている。

外付け解禁のガイドライン案、調整大詰め

 デジタル放送推進協会(Dpa)は3月14日にパソコン用地デジチューナーのガイドライン案をまとめ、電子情報技術産業協会(JEITA)やJEITAの加盟各社、パソコン周辺機器メーカーなどに配布している。3月末をメドにガイドライン案に対する各社の意見を集約した上で、4月上旬の放送業界関係者の会合に諮る。

 これまでパソコン用の地デジチューナーは、「デジタル放送を受信・表示・出力・記録する機能を一体のものとした機器」と定義付けられており、この規定を基に、外付け地デジチューナーを周辺機器として単体発売することはできないと解釈されていた。今回のガイドライン案では、受信機の定義について「提供製品が他のハードウエア、ソフトウエアと組み合わせて、受信器全体の機能を制御・保証でき、機能上一体として扱うものも含む」と明記し、周辺機器としてパソコンと組み合わせて使う外付け地デジチューナーも単体販売できることを明記している。

 ガイドライン案ではこのほか、(1)映像・音声のほかデータ放送や字幕も保護対象となること、(2)チューナーと視聴ソフトなどとの間で1分間に1回以上相互認証を行うこと、(3)パソコン内部でテレビ映像を扱う際は必ずローカル暗号化を施すこと、(4)テレビ映像の視聴時に画面をキャプチャーできないよう設計すること――などを求めている。パソコンにディスプレイを外付けして使っている場合、著作権保護技術のHDCPに対応したビデオボードとディスプレイが必要になるが、ノートパソコンや液晶一体型パソコンなどでは、そのままテレビ映像を表示し視聴できる。

PCIボードとUSB外付け型が店頭に、売れ筋は1万9800円か

 パソコン周辺機器メーカー各社では、PCIスロットに装着するタイプやUSB端子に接続するタイプなど、複数の対応機器が準備されている。「設計は基本的に完了しており、現時点のガイドライン案には対応している。ガイドライン案が確定し次第、仕様の最終調整を経て量産に取りかかる。B-CASカードの発行を得た段階で、少数のロットでも早い段階で出荷する方向で調整している」(パソコン周辺機器メーカーの開発担当者)など、各社とも北京五輪商戦に向けて一挙に外付け地デジチューナー市場を立ち上げたい考えだ。

 仕様は各社で異なるものの、視聴や録画のほか、データ放送、Blu-ray DiscやDVDへのダビング、チャプター分割による簡易編集、映像の解像度・ビットレートの変更といった機能が盛りこまれる見込み。多くは地デジ専用となる見込みだが、BS/CSを含めた3波対応のチューナーの投入を検討しているメーカーもある模様。価格帯は2万~2万5000円前後のものが多く、多機能機で3万円前後となる見込み。1万9800円といった低価格機を中心に市場が盛り上がりそうだ。