冬の風物詩,街路から噴き出す蒸気が煙る米ニューヨークのマンハッタンで,2008年3月12日から13日まで米メディア業界のカンファレンス「2008 Media Summit New York」が開催された。あまり日本では知られていないカンファレンスだが,米国では大手メディア,コンテンツ企業のキーマンが集まり,今後の事業戦略について本音を語る場として有名である(2008 Media Summit New YorkのWebサイト)。

 今回のカンファレンスでは,Webの台頭によるメディアの変化と融合といったテーマが目立った。例を挙げると「変革する新聞社」「映像コンサプション(利用法)」「テレビとブロードバンドの架け橋」「境界なきテレビ」などだ。テレビ局や新聞社といった旧来型メディアが,新たなビジネスモデルを必死で模索している様子が強く出ている。

 2日間で約20のセッションが開催され,パネリストにはニューヨーク・タイムズ,USA Todayなどの新聞社,ABC,CBS,NBC,Comcastなどのテレビ局,aQquantiveなどの広告代理店,AOLなどポータル企業,Joost,YouTube,RockYouなど映像配信のWeb2.0系企業といったそうそうたる企業が並んだ。全部で100社を超える企業が参加し,メディアビジネスの現状と今後について熱い議論がなされた。

ディズニーはiTunesで10億ドルを超える売り上げと公表

 講演やディスカッションの中では,Webへの取り組み実績などが初めて明かされたりした。最もインパクトがあったのが,初日の基調講演で米ディズニーのロバート・アイガーCEOが「我々のコンテンツはiTunesで4000万回以上ダウンロードされ,10億ドルを超える売り上げをあげている」と公表したことだ。予想をはるかに超える数字に,会場からは驚きの声が挙がった。

 2日目の基調講演ではCBSのレスリー・ムーンベス社長兼CEOが登壇。同社のディジタル・メディアのポートフォリオについて語った。例えば,ロードサイドの屋外看板をデジタル化して,時間帯によって広告内容を変えることで大きな効果をあげているという(写真1)。

写真1●初日の基調講演に登場した米ディズニーのロバート・アイガーCEO
写真1●初日の基調講演に登場した米ディズニーのロバート・アイガーCEO

 講演以外でも,会期中の3月12日に映像配信サービス「Hulu」が米NBCと米FOXのジョイント・ベンチャーとしてスタートした。米国の旧来型メディア企業は急速にWebに接近しており,ここ最近はさらにその変化のスピードを増している。

 今がまさに転換期であることは,大手メディア企業の共通認識になっている。カンファレンスでは,あるベンチャー・キャピタルは「(Webの台頭で)コンテンツの伝送路,流通(紙,電波,ケーブル)はコモディティ化している」として,すでに“容器”としてのメディアには価値がないと喝破した。

 こうした環境変化に対して,MTVのパネリストは「今後,大手メディアが収益を上げていくには,過去の映像ライブラリなどのコンテンツを活用するしかない」と発言した。他のパネリストもこれに同意しており,メディア企業はコンテンツに企業の命運を賭けざるを得ないというのが参加者共通の認識のようだ。

 次回以降,講演やパネル・ディスカッションの内容から,特に重要な動きをピックアップして紹介する。

志村 一隆(しむら かずたか)氏 情報通信総合研究所 主任研究員
1991年早稲田大学卒業,WOWOW入社。2001年ケータイWOWOW設立,代表取締役就任。2007年より情報通信総合研究所で,放送,インターネットの海外動向の研究に従事。2000年エモリー大学でMBA,2005年高知工科大学で博士号を取得。