ケーブルテレビ(CATV)による地上波放送の再送信の在り方を検討していた総務省の「有線放送による放送の再送信に関する研究会」(座長:新美育文・明治大学法科大学院教授)は,2008年3月19日に最終報告書を公表した。「再送信同意制度」や「大臣裁定制度」,地上波放送の「県域・広域免許制度」などの現行の枠組みを変えないことを前提に,CATVによる地上波放送の再送信に関する現状の問題点を洗い出し,その解決策を提言した。基本的には,3月13日に開いた最終会合で承認した最終報告案の内容を踏襲したものになった。

 CATVによる地上波放送の再送信に関する現在の最大の問題は,CATV事業者が地上デジタル放送を区域外再送信する場合である。地上アナログ放送と同様に地上デジタル放送でも区域外再送信を行いたいCATV事業者と,デジタル放送では認めたくない地上波放送事業者の間で再送信同意に関する協議が決裂し,CATV事業者が大臣裁定を申請するケースが続出していた。しかも,現在の大臣裁定の仕組みでは,「正当な理由」がない限り地上波放送事業者は,区域外再送信に同意しなければならない。「この正当な理由が,CATV事業者にとって圧倒的に有利な"非対称規制"になっている」と,地上波放送事業者は主張していた。

 こうした状況を受けて研究会は最終報告で,事業者間の協議で問題を解決することを原則とし,協議が決裂した場合の大臣裁定の基準の見直しを提言した。見直しに当たっては,当事者であるCATV事業者と地上波放送事業者の意向だけでなく,アナログ放送からデジタル放送への移行に伴う視聴者利益に可能な限り配慮するとした。具体的には,地上波放送事業者の意図に反してCATV事業者が番組を一部カットしたり歪曲したりして再送信するといった,再送信を拒否できる五つの「正当な理由」は今後も維持したうえで,新たな基準の導入を求めた。

 例えば,生活面・経済面などの関連性が認められる隣接地域に区域外再送信する場合は,視聴者利益の保護を優先して,一般的に同意の裁定になるとした。隣接していない遠方の地域(例えば東京都から北海道)に区域外再送信する場合は,原則として同意の裁定にならない。ただし,再送信先の地元局の経営に与える影響については,裁定になじまないとした。また,過去に同意が得られていた区域外再送信が,今回の基準の下で困難になる場合は,視聴者利益を守るための経過措置(激変緩和措置)を講じることが考えられるという。一方,区域外再送信を認めるチャンネルについては,委員の考え方が分かれた。具体的には,「区域外再送信先の地域に存在しない系列局のチャンネルも,地域住民のニーズに応えるために再送信を認めるべき」という意見と,「現行制度の考え方に照らして不適当」という意見を併記した。