NTT東西地域会社のFTTHサービス「Bフレッツ/フレッツ・光プレミアム」がユーザー数を順調に伸ばしている。総務省の調査によると,FTTH市場におけるNTT東西のシェアは2007年12月末時点で71.4%(図1)。NTT東西はヒト・モノ・カネを徹底的に投入して拡販に努めており,現在はさらにシェアを伸ばしていると予想される。FTTH市場はNTT東西の独壇場だ。

図1●FTTH市場で“独り勝ち”のNTT東西
図1●FTTH市場で“独り勝ち”のNTT東西
2007年12月末時点で70%以上のシェアを誇る。

 NTT東西による「独占」はユーザーにとって歓迎すべきことではない。この傾向が今後も続けば,料金が高止まりする可能性がある。機能強化や品質向上も競争なくして進展は見込めない。

仕入れ値の低廉化でサービス競争を促進

 そこで光ファイバの“仕入れ値”を安くすることにより,事業者間の「サービス競争」を活性化させようとする動きが出てきた。具体的にはNTT東西の光ファイバを巡って以下の二つの案があり,総務省の接続委員会で2007年11月から議論が始まった(図2)。

図2●FTTH市場でサービス競争を促進させるための二つの案
図2●FTTH市場でサービス競争を促進させるための二つの案
総務省の接続委員会はNTT東西の光ファイバについて,(1)貸し出し形態の見直しと,(2)接続料の改定を議論してきた。
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 一つは,NGN(次世代ネットワーク)の接続ルールで本格的な検討が始まった「貸し出し形態の見直し」。戸建て向けのFTTHは現在,「シェアドアクセス」と呼ぶ方式で,1心の光ファイバを複数のユーザーで共有する仕組みが主流となっている。他事業者がこれを借りる場合,1ユーザー分しか必要なくても最低8ユーザー(分岐)単位で借りなければならない。これを1ユーザー(分岐)単位の貸し出しに変更し,仕入れ値を安くする。

 もう一つは「接続料の改定」。接続料とは他事業者がNTT東西から光ファイバを借りる際に払う利用料で,ちょうど7年ぶりの改定時期を迎えた。戸建て向けのシェアドアクセスと,集合住宅/法人向けで利用するダーク・ファイバの両方の接続料を改定する。接続料の算定方法を見直すことにより,ここでも仕入れ値が安くなる可能性がある。

「自ら敷設するのは不可能に近い」

 通信事業者間の競争は,各事業者がインフラを自ら敷設して競う「設備競争」と,NTT東西からインフラを借りてサービスで競う「サービス競争」の二つの形態がある。現在のFTTH市場は設備競争に軸足が置かれており,電柱や管路,とう道といった線路敷設基盤を保有するNTT東西が有利な状況にある。

 総務省は他事業者でも自前で光ファイバを引けるように線路敷設基盤の開放ルールを定めているが,効果はあまり出ていない。KDDIやソフトバンクは「NTTが100年かけて作った(メタル回線の)インフラを光ファイバに置き換えるのと,我々がゼロからインフラを敷設するのとでは差があり過ぎる。光ファイバを自ら敷設して設備競争するのはほとんど不可能に近い」と音を上げる。

 KDDIはインフラを持つ企業を買収する戦略に出ている。2007年1月1日付で統合した東京電力の光通信事業に続き,2008年1月には中部電力の同事業を買収すると発表した。他の電力系事業者との連携も予想されるが,同社から「積極的に働きかけるつもりはない」(小野寺正社長兼会長)。「日本全国で構築する体力はない」(同)と正面切った設備競争には及び腰だ。ソフトバンクにいたっては設備競争はおろか,FTTHサービス自体を積極的に提供しておらず,勝負の土俵にすら上がっていない感がある。

 もっとも,ブロードバンドの選択肢はFTTHだけではない。固定アクセスはFTTHが最終形としても,KDDIやソフトバンクには3.9G(第3.9世代携帯電話)やモバイルWiMAXなどの無線アクセスで対抗する手段がある。ただし,その場合も「全国の基地局はNTTの光ファイバで接続することが多い。これは,料金設定権をNTTに握られてしまうことになりかねない」(KDDIの小野寺社長)と危機感を募らせる。

 KDDIやソフトバンクの不安をさらに駆り立てるのは,NTTグループが総力を挙げて構築するNGNの存在だ。NTT東西のNGNは光アクセスが一体となって提供される。コンテンツ・プロバイダやアプリケーション・ベンダーを巻き込みながら今以上に攻勢をかけてくるのは間違いない。地上デジタル放送のIP同時再送信もFTTH拡販の追い風になると見られる。

結局,何も変わらない可能性大

 こうした状況下で,KDDIやソフトバンクが期待を寄せていたのが総務省の競争政策。FTTH市場にサービス競争を引き起こすには,政策による後押しが不可欠である。KDDIやソフトバンクは事あるごとにNTTの独占傾向を訴え,冒頭で説明した「光ファイバの貸し出し形態の見直し」を主張してきた。これまではなかなか検討が進まなかったが,NGNの接続ルールでようやく議論の俎上に載った。

 だが,総務省の接続委員会は2008年3月,1分岐貸しの導入を見送る結論を出した。代わりにNTT東西には光ファイバ接続料の値下げを要請することにしたが,大幅な値下げまでは期待できそうにない。FTTH市場の競争は進展せず,当面はNTT東西のシェア拡大が続く可能性が高い。

 次回以降は,第2回と第3回で接続委員会の議論を再検証し,第4回で今後の行方を展望する。