どの業界でも,どんな職種にもたくさんのプロ達がいる。誰もが認める高い専門性や技術を持ち,プロとしての自覚を持って誇り高く行動する人たち。彼らだって若いころは駆け出しの新前であったわけで,とてもプロとは呼べない時期があったことだろう。では,これから先はどうなのだろうか。

 隠退して仕事を離れ,悠々自適となるその直前まで,現役のプロであることが約束されているのだろうか。それとも,まだそれほどの年齢に達していないのにプロとは呼べなくなってしまうことが起こりうるのだろうか。

 加齢とともにプロであるということに陰りが出てしまう人が少なからずいる一方で,加齢とともに磨きがかかり現場から一目置かれる人たちがいる。ごく少数だがそういう人は「いつかあの人のようになりたい」とあこがれの存在になり,「○○の神様」などと呼ばれるようになっていく。

 その分かれ道はどこにあるのだろうか。加齢とともにプロであることにさらに磨きがかかってゆく人にみられる特徴をいくつか挙げてみよう。

 (1)これまでの経験に頼ろうとしない。
 (2)新しい技術の習得に熱心である。
 (3)好奇心が旺盛で自分にとって未知の領域に関心がある。
 (4)自慢話をしない。
 (5)偉そうに振舞わない。

 十分に豊富な経験を積んでいてもさらに自分を磨こうとする様子がなく,むしろ経験の上にあぐらをかいていたり,「俺の方が知っているんだぞ」という態度で偉そうに振舞おうとしたりすると,若い人たちはそれを簡単に見抜く。常に「自分は未熟である」と考える人は,実は十分に豊富な経験を積んでいるのに本人は「まだまだ,こんな程度では駄目」と思っているから,何歳になっても新しい技術の習得に熱心である。誰よりも高い技術を持っているのに偉そうに振舞わず,一生懸命に自分を磨こうとしているベテランの姿は,若い人たちから見たらすごく格好いいのだ。

 「プロとしての真の実力」は飾ることができないし,肩書きを付けたから身に付くものでもない。若手エンジニアでも,今自分が担当している領域以外の言語やパッケージについて関わろうとしない傾向があることは確かだ。その原因の大きなものに,納期に追われて時間的・精神的に余裕がないことが挙げられる。余計なことに関心を持ったり関わったりしていて課された役割が果たせなかったら,何を言われるかわからないからである。

 職人技を持ったプロが多く存在するといわれる建設業でも,このところ「プロが育たない」ことが問題になっており,その原因として,採算性・効率性を追求しすぎたことが挙げられている。「プロであり続けるための条件」のひとつは本人の考え方や行動にあることは間違いないが,職場環境における時間的・精神的な余裕も重要である。

木村 哲(きむら てつ)
ビーコンIT
コンサルティング部 チーフコンサルタント
1980年にIT業界入りし,パッケージ・ソフトウエアの販売を担当。1992年頃よりデータ・ウエアハウス,ビジネス・インテリジェンスの分野の事業を担当し,多数のパッケージソフトの輸入,企業導入を行う。2000年よりコンサルティング事業にかかわり,立場をそれまでのRFPを受けて提案する側から,要件定義/RFP作成をする発注側に転じる。発注する側,受ける側の両方の視点に立ったプロジェクト・マネジメントを得意とする。

■本特集に関連して,日経SYSTEMS 2008年4月号に特集「プロフェッショナルの現場 ユーザーに尽くし,ユーザーに信頼される」を掲載しています。ぜひ併せてお読みください。