ITコンサルタントの草分けG.M.ワインバーグが,納期遅延について面白いことを言っている。すなわち「遅延は1日ずつ生じる」と。システム構築プロジェクトでは,その日に済ませたいことをその日のうちに済ませることができない,ということがよく起きる。
提出物が不十分で後日再提出になった報告,結論を持ち越した会議,未確認事項が残ったヒアリングなど。このようにして生じた見過ごされがちな小さな遅れが1日ずつ蓄積して,ある日,1週間とか1カ月といったまとまった量の遅延となってようやく問題として認識されるようになる。
私の同僚にIさんというめったなことでは遅延を作らない,いわばスケジュール順守のプロがいる。彼は「要求定義のヒアリングは7回」と決めると,本当に計画通りの7回あるいかそれ以下の回数で完了させる。期日を越えることはないし,品質も申し分ない。
その秘密が知りたくて,Iさんの要求定義ヒアリングのための長野出張に付き合ったことがある。Iさんの要求定義ヒアリングは,不思議なことに予定した時間をフルに使ったことは一度もなく,いつも予定時間内にあっけないくらい簡単に終わってしまう。あるときなど,1日かかると予測していたのに午前中で終ってしまったので,午後は2人で近所の温泉に立ち寄ってしまったくらいだ。
その秘密は,ヒアリング前の準備にあった。Iさんとクライアントの担当者との間でかわされたメールの数は,なんと18通。計算すると,2日に1通の割でのやり取りをしていたことになる。必要な情報やドキュメントは必ず事前に入手していて,それを基に推論し仮説を立てておく。疑問が生じると,次回のヒアリングの機会を待たずに,すぐにメールで問い合わせして確認してしまう。
実際にクライアントに赴いてのヒアリングの場では,あらかじめ立てておいた推論や仮説がその通りであるかどうか,確認をするだけ。新たな事実が発覚しない限り,毎回のヒアリングがあっさりと終ってしまうのは当然のなりゆきだったわけである。
Iさんは「その日の作業を確実にその日に終らせるためには,その日の仕事をその日に始めるのではなく,その日が始まった時には既にほとんどが終っていなければならない」と言う。「その日に始めるからその日に終らなくなる」というわけだ。
ミーティングの場で「次回までに調べておく」とか「別の日に集まって打ち合わせする」といったことを取り決めることがよくある。Iさんに言わせると「その行動そのものがすでに遅延の芽を作っているのではありませんか」ということなのだとか。明日できることは今日はやらないタイプのルーズな私には,耳が痛い言葉だった。
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■本特集に関連して,日経SYSTEMS 2008年4月号に特集「プロフェッショナルの現場 ユーザーに尽くし,ユーザーに信頼される」を掲載しています。ぜひ併せてお読みください。