あなたは無理な仕事を持ち込まれたときに、「今は無理です」とキッパリと断れますか?
 
 つい先日、大手システム・インテグレータの1社に務める大学時代の友人A氏と酒を交わした。といっても、ある取材の下調べのために、現状を把握するのが主目的。ある取材というのは、IT技術者のこころの病についてである。

 何をいまさら、と思わないでいただきたい。弊社の雑誌やWebなどで幾度となく、こころの病に関する記事を取り上げてきているが、常にウォッチしていかないとこころの健康は保てない。それに、IT業界が3K職場などと自虐的な考えにとらわれず、前向きになるためにも、重要なことだと思っている。

 とにかく、IT業界内のこころの病の現状を知るために、A氏の身の回りに起きているこころの病の現状について話を聞いた。その取材の最後になって、IT業界の根深い問題に直面した。食事の後に、コーヒーを飲もうと、東京・大門にあるファストフード店に入った。夜もふけ、23時過ぎ。歓談中のA氏の携帯電話が鳴り始めた。

 「あれ?前のお客さんだよ」とつぶやきながら彼は電話に出た。彼はある客先の情報システム部の常駐業務から、別の顧客の新規開発プロジェクトのリーダーに異動したばかり。つい1、2カ月前まで一緒に働いていた顧客の情報システム部担当者からのSOSが、その電話だったのだ。

 「深夜に動かさなければならない連結会計システムがコケた? 新しい担当の××はどうしてます? 捕まらない? じゃあ、うちの△△部長に連絡してみてください」と、A氏は一度は電話を切った。担当から外れたのだから、当然の対応だろう。しかし、その後の彼は気もそぞろなのが見て取れる。「連絡取れたかなぁ。やっぱり、ちょっと心配だから・・・」と言って、先ほどの電話の主に折り返す。

 彼の心配は的中。△△部長とも連絡が取れず、新担当の××も捕まっていないようだ。ほとほと困っていたところに、救世主からの電話である。「何とかして」と顧客は泣きついてくる。「うーん・・・。分かりました。けれど高くつきますよ」とA氏。半分は渋々、あてにされているうれしさ半分といったところだろうか。コーヒーをぐいっと飲んで彼は席を立ち、タクシーを拾い、渋谷方面へと消えていった。

 深夜まで追いかけてくる切れ目のない仕事と、自分がやらなければ他に誰ができるのかと責任感を強める技術者と、あやふやなトラブル対策。結果的にIT技術者にしわ寄せがいく。突発事故の場合だけと言ってしまえばそれまでかもしれないが、こうした技術者個人のモチベーションと見えない努力によって、IT業界が支えられているのだとすれば、やはり問題だと思う。

 A氏のような過重労働が積み重なり、さらに何かのきっかけでこころの病は発生する。多くのIT技術者がその危機にさらされ続けていることを目の当たりにした私はなおさら、IT技術者に関するこころの病について記事にまとめてみたいと、強く思った。そこで、「こころの病」に関するアンケートを広く募集しています。結果についてはITpro以外に、日経コンピュータ(5月1日号)の特集記事でも掲載する予定だ。IT技術者の生の声を訴えかけるためにも、是非ご協力いただきたい。

「こころの病」に関するアンケートhttp://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Research/20080320/296600/?ST=enq