タイトルを見て疑問を持った読者もいるかもしれない。これは決して安い給料で働けと言っているわけではない。プロジェクト・マネージャ(PM)が指揮をとるプロジェクトとは,結果を出してこそ評価される世界であり,結果が出なければ成果として認められない。結果を出さずに評価されることを期待してはいけない,ということだ。

 「私はこんなに頑張っている。なのに認めてもらえない」という人がいるかもしれない。しかし,シビアな言い方をすれば,結果が出なければそれまでである。

毎日,頑張っていたFさんの話

 筆者が前職で働いていたころの話である。先輩にEさんとFさんという二人の社員がいた。ある日二人は,お互いにデータ連係を行いながら動作する二つのシステムについて,それぞれシステム再構築のPMを任されることとなった。それまでNetWare上に構築されていた社内ネットワーク基盤をTCP/IPベースに変更することに伴う再構築である。両システムとも,これを機会にWindowsベースのクライアント/サーバー(C/S)システムに変更する。

 EさんとFさんが担当することとなった二つのシステムは,同じくらいの規模であった。両システムとも情報系システムだったことから,開発難易度や開発期間は同程度になると予測された。ユーザー部門からも,二つのシステムの同時カットオーバーを要求されていた。

 開発が始まると,Fさんは張り切った。開発当初から毎朝誰よりも早く出社し,終電間際まで働いていた。実装フェーズころからは土日も出社し,会社に泊まり込むこともよく見かけるようになった。

 一方,Eさんはというと,張り切ってはいたが,仕事のスタイルについては普段と大きな変化は見られなかった。開発終盤こそ土日に出社したことがあったようだが,それ以外は会社に泊まることもなく,定時退社ではないものの終電前に帰宅していた。

 お互いに結合テストが完了し,システム間連系テストに入ったときである。Fさんの担当するシステムにバグが多く,連携テストを1カ月ほど延期することとなってしまった。その後,なんとか巻き返してはみたものの,結果的にはこれが大きく影響し,カットオーバー時期が当初予定されていた期日から2週間遅延した。

 その後,Eさんはそのときの開発結果を評価されて,社内表彰を受けることとなった。受賞理由は社内として初の本格的なWindowsベースでのシステム構築ということであった。一方,Fさんは同時期に同じ内容の開発を行ったにもかかわらず,評価を得ることができなかった。これに納得のいかないFさんは「私の方が毎日頑張って働いたし,確かにバグは出たが最後は動いたじゃないか。Eなんて毎日早く帰って,ろくに働いていないじゃないか。かかわったメンバーで差が出たんだよ」と言っていた。

誤った「頑張る」の定義

 従来,伝統的な日本企業では「長時間労働=頑張っている」という認識が多かった。最近は成果主義という考え方が広まってきたが,それでもまだ残業時間を見て「彼は最近頑張っているようじゃないか」という管理職は多い。Fさんの場合も同様である。彼は自分が長時間働いているから「頑張っている」と主張し,評価されるべきだと考えた。

 「頑張っている」とは主観的な評価である。これを客観的に評価するための指標として「労働時間」を用いたのがFさんなのだ。だが,PMは知識労働者である。自分の時間を売ってお金を稼ぐ職業ではなく,自分の頭を使って結果を出すことで対価を得る職業なのだ。PMが「頑張っている」と言われるための指標は「労働時間」ではなく「結果」なのである。

 では,どうしたら「頑張った」と言われるようになるのだろうか。そのためには「この仕事を行うのにどのくらい時間が必要か」と考えてはいけない。なぜなら,この思考はすでに「労働時間」を基準とした考え方だからだ。PMは「この与えられた時間で何ができるか」を考えるべきなのだ。限られた時間の中で最大限の成果を出してこそ大きな評価を得られるのだ。この時間と結果に関する思考を切り替えない限り,PMとして高い評価を得るのは難しい。

 プロジェクトに与えられる時間は常に有限である。1日の長さは誰にとっても24時間である。時間を有効に使わなければならない。PMは,プロジェクトに参画したメンバーの時間さえ動かすことが出来る。

 PMたるもの,この有限な時間を生かすために,この時間で何が出来るか?どこに注力すべきか?どうすれば最も効果的か?――ということを常に問いながらプロジェクトに従事したいものである。

上田 志雄
ティージー情報ネットワーク
技術部 共通基盤グループ マネージャ
日本国際通信,日本テレコムを経て,2003年からティージー情報ネットワークに勤務。88年入社以来一貫してプロジェクトの現場を歩む。国際衛星通信アンテナ建設からシステム開発まで幅広い分野のプロジェクトを経験。2007年よりJUAS主催「ソフトウェア文章化作法指導法」の講師補佐。ソフトウェア技術者の日本語文章力向上を目指し,社内外にて活動中。