プロジェクト・マネージャ(PM)の中には,やたらと横文字や英略字を使って会話する人がいる。そういう人に「よく分からないので,詳しく教えてください」と聞くと,きちんと説明できないことが多々ある。言葉を正確に理解せずに使っているのだ。相手に説明できない言葉は,その言葉について理解しているとは言えない。

 あるPMがユーザーに「最適なシステムはSFAをパッケージ化したこの製品です」と提案したとしよう。ところがユーザーから「SFAとは何ですか?」と聞かれたときに「え~と…それは…SはSalesのSでして…」と,たどたどしい説明をしていたのでは,その提案に対するユーザーの興味と,PMに向けられていた尊敬の眼差しは,吹き飛んでしまう。

 また,あるPMが各チーム・リーダーに向かって「工程を管理してください」と言ったとしよう。その際,あるリーダーから「工程を管理するとは具体的に何をやればよいのですか?」と聞き返され,これに対して具体的に答えられなければ,PMはいったい何を指示したいのか誰も分からないことになる。

A君の悲劇

 A君は入社5年目。中堅SEとして活躍していた。彼はことあるごとに「それはPMBOK(プロジェクトマネジメント知識体系)ガイドに書いてあります」と言って周囲を納得させ,かつPMBOKを知っている社員として一目置かれていた。ただ筆者は,同じ部署にいるということもあって,彼の発言の信ぴょう性に少々疑問を抱いていた。

 ある日,A君は自身がPMを務めるプロジェクトの進ちょく会議で,多少いらいらしながら次のような発言をした。「顧客の要求を正しく把握できないのは,みんなが勉強していないからだ。要求を整理するフォーマットくらいPMBOKのコピーでもよいから準備しておくべきだ!」

 社員と協力会社のメンバーたちは一瞬静かになり自分たちの知識のなさを反省した。しかし,そのときである,一人のベテラン・メンバーが口を開いた。「要求を整理するフォーマットはPMBOKのどこにあるのでしょうか?」

 この一言にA君は慌てた。彼はこれまでPMBOKについてはセミナーや書籍などで何となく知ってはいたが,本格的に勉強したことはなかったのである。それでもA君は必死になって「PMBOKを読んだことがないのか?」と聞き返すと,その社員に「PMBOKには具体的なフォーマット事例は載っていなかったと思います」と切って返されてしまった。

 「な~んだ,知ったかぶりだったんだ…」と,皆が心の中で思った。これでA君に対する尊敬と信頼の念は一気に崩れ落ちてしまった。

「管理」という言葉の意味は?

 A君はPMBOKで失敗したが,日常,何気なく使っている日本語でも同様の例がある。例えば普段多用する「管理」という言葉について,相手に分かりやすく説明できるPMはどれだけいるだろうか?筆者は部下に「管理」とは次のような意味だと説明している。

 管理とは「計画の変更」である。管理は計画が存在するから必要なのである。計画がなければ管理する必要はない。また,計画が完全にその通りにいく場合にも管理する必要はない。ある計画が存在したときに,その計画を監視し,その計画に影響を与える事象が発生した場合に計画通りに進めるように取り除いたり,必要に応じて計画を変更したりすることを「管理する」と言う。

 このように,普段何気なく使っている言葉でさえ,他人に説明するのは難しい。自分が使った言葉について,具体的に分かりやすく相手に説明できなければ,相手の受け止め方によっては誤解を生じてしまう可能性をも秘めている。では,どうすればよいのか。