写真1●トライアルカンパニーの西川晋二 取締役CIO(撮影:皆木優子)
写真1●トライアルカンパニーの西川晋二 取締役CIO(撮影:皆木優子)
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 中国で650人もの技術者を自前で採用・育成しているユニークな日本企業がある。九州を中心に大型安売り店を展開するトライアルカンパニーだ。同社は日本で使うシステムの開発や保守、運用などに中国の技術者を活用している。

 狙いは優秀な人材の確保だ。「日本でIT技術者を採用したくても、優秀な人材はなかなか採れない。中国だと、日本企業のブランド効果と、日本で仕事ができるというインセンティブが働き、成績優秀な大卒の若手技術者を採用できる」。同社の西川晋二 取締役CIO(最高情報責任者)は、こう説明する(写真1)。

 トライアルカンパニーが、システム子会社のTREチャイナを通じて2007年に270人の人材募集をかけたところ、6800人が応募してきたという。25倍の狭き門である。「日本では考えられない人気だ」と西川CIOは満足げだ。

 トライアルカンパニーが技術者の自前による確保にこだわるのは、本連載の前々回、前回に紹介したヤマハ発動機や住友電装と同様に、アプリケーションを自前で開発する方針を貫いているからだ。「自前主義には大量の技術者が必要」(西川CIO)なのである。

愛社精神を育て離職を食い止める

写真2●中国・大連にあるTREチャイナの開発拠点
写真2●中国・大連にあるTREチャイナの開発拠点
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写真3●福岡県にあるトライアルカンパニー本社のIT部門で働く中国人技術者(手前)
写真3●福岡県にあるトライアルカンパニー本社のIT部門で働く中国人技術者(手前)
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 中国でも上海や北京など大都市は人材獲得競争が激しい。そこでトライアルカンパニーは、大連や煙台、青島など東北地方を中心に開発拠点を展開(写真2)。さらに、人事部門が「キャラバン隊」を組んで大学を回り、採用を呼びかけている。

 新卒の技術者には日本語とITを教育するほか、入社2年目には日本で半年間の業務研修を受けさせるなど、手厚いメニューを用意している(写真3)。ところが、2003年にTREチャイナを設立してから2~3年の間は、やっと戦力になった技術者が、欧米ベンダーなどに高給でさらわれるケースが多発した。

 海外では技術者の離職率が日本よりも高い。特に中国は30~40%とされ、インドの10~20%や日本の10%前後を大きく上回る。トライアルカンパニーは、この人材流出問題に直面したのである。

 どうすれば離職を抑えられるか。トライアルカンパニーは、技術者のキャリアパスを明示することで、「辞めないメリット」を実感できるようにした。さらに、入社4~5年目のリーダー・クラスに、新人の相談役になってもらう手も打った。ブリッジSEとして活躍するマネジャの姿を見て、「ここでがんばれば数年後には先輩のようになれるんだ」と感じてもらうのが目的だ。

 同時に、研修後すぐに辞めたら研修にかかった費用を請求する契約を結ぶなどして退職を食い止めた。一連の対策が少しずつだが結実し、かつては30%にも達していた離職率は、15%まで低下している。