写真1●ソニーが開発拠点を構える「大連ソフトウェアパーク」のビル
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写真2●ソニーのCIO(最高情報責任者)を務める長谷島眞時ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長(撮影:中島正之)
写真2●ソニーのCIO(最高情報責任者)を務める長谷島眞時ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長(撮影:中島正之)
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 中国・大連のIT集積地「大連ソフトウェアパーク」の中心部にある5階建てのビル(写真1)。エレベータで3階に上がると、小さな「SONY」の4文字が目の前に現れる。一見、ただの海外事務所のようだが、ここが日本からのシステム開発案件をコントロールする「オフショア・リソース・マネジメント・センター(ORMC)」である。

 ORMCはソニーが設けた自前の開発拠点だ。大連のほか、インドのバンガロールにもある。日本と中国の開発案件は大連、欧米の現地法人のシステムはバンガロールのORMCを通すのが基本ルールだ。ORMCの運営は、システム子会社「ソニーグローバルソリューションズ(SGS)」が担う。

 社内情報の流出防止と、開発ノウハウの蓄積。ORMCの役割は、この2つだ。海外といえども自社の拠点なので、データやプログラム、業務ノウハウなどが社外に流出するリスクは格段に減らせる。自社の開発方法論や開発標準に準拠して仕事を進められるメリットもある。契約や調達などの情報を一元管理することで、ソーシングのノウハウも蓄積できる。

 ソニーのCIO(最高情報責任者)である長谷島眞時ビジネス・トランスフォーメーション/ISセンター長(写真2)は、「仕事を海外のベンダーに切り出すのではなく、海外の技術者を使ってインハウスで新しいプロセスを作るイメージだ」と、同社におけるグローバル・ソーシングの基本的な考え方を説明する。「そのコンセプトを実現するための要がORMCなのだ」と続ける。

センター・オブ・エクセレンス(CoE)を目指す

 欧米では、ゼネラル・エレクトリック(GE)がインドに数千人規模の専用拠点を設けたり、米ファイザーが1000人規模の開発拠点をインドに構えるなど、自前の拠点を持つグローバル企業が珍しくない。ソニーのORMCは、欧米のグローバル企業に比べると規模は1けた小さいが、日本企業としては先進的だ。

 ソニーのORMCのような拠点を、欧米系のグローバル企業は「センター・オブ・エクセレンス(CoE)」と呼ぶ。技術者を集め、社内に経験とノウハウを蓄積するための組織だ。例えばノバルティスは、ハイデラバードにある600人体制の自社拠点「ノバルティスグローバルサービスセンター」をCoEと位置付けている。

 長谷島CIOがORMCの重要性を強調するのは、欧米など海外拠点を中心に、本来は社内に蓄積すべき設計やプロジェクト管理などの仕事までインドなどのベンダーに出してしまうケースがあったからだ。「社内のナレッジが空洞化しつつあった」(長谷島CIO)。

 だからといって、連結売上高が8兆円を超えるソニーが、すべての案件を内製するわけにはいかない。グローバル・ベンダーの力を取り込みながら、社内に残すべき経験、蓄積すべき能力の流出を避けるには、どうすればいいのか。その解がORMCというわけだ。